運動には、効率が一気に上がる境界、「中強度」というものが存在することが分かっている。持続できるが効果が薄い運動レベルが「低強度」で、体力的にキツ過ぎて持続できないレベルが「高強度」。中強度の運動は、運動効果と運動強度が黄金比なので、「どうせ運動するなら、中強度以上でやらないともったいない!」と、今回の研究の立役者・ファンケルの新規事業推進部ヘルステック事業開発準備室の阿部征次さんは力説する。阿部さんは元柔道家で、北京オリンピック柔道フィジー監督を務めた一流アスリート。研究者に転身後は、日本体力医学会学賞を受賞するなどの成果を上げてきた。

「中強度」の測定方法は
50年前から変わっていない

 中強度は「AT(無酸素作業閾値〈いきち〉:運動の強さを増していくとき、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値)」とも呼ばれ、軽い運動の強さが徐々に増していく際に、有酸素運動から無酸素運動に切り替わり始める転換点で個人の体力の指標となる。

「中強度の運動強度から『高強度』に変わるまでの範囲が、個々人の効率的な体力づくりにつながる最適な運動強度です。運動習慣がない人や病み上がりのリハビリとして運動する場合にはATギリギリあたりが安全です。競技力の向上をめざすアスリートは、高強度付近を攻めていくのが効率的です」(阿部さん、以下同)

 このATを呼気で測定する分析法が「呼気ガス分析法(VT)」で、高額な機器、専用施設、専門家(医師)などを必要とするため、個人がATを測るには高いハードルがあった。

 しかもこの方法は、かなりきつい。具体的には、吐いた息を集めるためのマスクをつけて、初めはジョギングくらいの速度からスタートして徐々に速度を上げていき、「これ以上走れない」という速度まで走る。運動習慣のない人間に、そこまで自分を追い込むことができるだろうか。ましてリハビリにはまったく向かない。

 VTは、1973年にワッサーマンという人が「AT」について報告して以来、50年間も変わらずに使用されてきた測定法だ。もっと簡単で安価な測定法の開発に多くの研究者が挑戦してきたものの、どれも実用化には至らなかったという。