大型クルーズ船の世界でヨーロッパに勝ちたい!

 過去20年余りの間に、日本や韓国の造船会社も長期にわたって、大型クルーズ船の設計・建造に参入し、ヨーロッパ勢の牙城を崩そうと挑んだ。だが、結果はいずれも惨敗に終わっている。

 量的規模を追求してきた中国の造船業も、大型クルーズ船の設計・建造を非常に重く見ている。大型LNG(液化天然ガス)運搬船、航空母艦と並ぶ「三つの峰」と見ているが、中国の造船業界にとっては、そのなかで唯一実績を作れなかったのが大型クルーズ船だった。

 中国メディアの報道によれば、 2022年、中国の造船業は、完成造船量、新規受注量、手持ち受注量の3大指標で世界トップの国際市場シェアを維持した。13年連続で世界首位を維持している。シェアを拡大する一方、中国造船業の目玉は、大量のハイテク船舶だ。だから、大型クルーズ船の建造に中国の造船業が燃える理由もそこにある。

 大型クルーズ船の建造は、これまでヨーロッパの造船会社が事実上独占してきた。前出のフィンカンティエリ、ドイツのマイヤー・ヴェルフト、フランスのアトランティーク造船所の大手3社で、世界の中・大型クルーズ船の大半を受注している。

 中国造船業はこうした局面を打破しようとしている。アドラ・マジックシティー号の進水を見た中国国民は、ドイツ、フランス、イタリア、フィンランドに次いで、中国も世界で5番目に大型クルーズ船を建造できる国となったと見ているだろう。

 一方、クルーズ船のビジネス効果も無視できない。08年から20年にかけて、上海には延べ3000隻以上のクルーズ船と延べ1500万人の観光客が訪れている。地元の観光業などにとってはもちろん大きな存在だが、就職口の増加などのメリットを考えると、その魅力はさらに他業界にも広がる。上海市文化・観光局が動き出した理由もそこにある。

 ただ、アドラ・マジックシティー号の進水は新しい論争も巻き起こしている。