休みベタだったフランスがバカンス大国に変容できた理由

白河 フランスも1930年代に年次有給休暇制度を宣言したものの、すぐに変容できたわけじゃない。日本も超えるべき壁はいくつもありますが不可能ではない。私はテレワークという概念がコロナで日本に普及したことは、とても大きな一歩だと思っています。無理だと思ったのに、やってみたら労使ともにメリットもあった。人間、やってみたら良さが分かることってたくさんあると思うんです。そういう声は近年、男性育休取得を義務にした日本の経営陣からも聞かれました。

高崎 そうですよね!やってみるというのがとても有効で、そのために仕組みを作ることが大事です。

 例えばフランスで、バカンスを実現できる理由のひとつに「分業制」があります。仕事を属人的にせず、チームで分担するという考え方です。ある仕事をペアで担当したり、作業を細分化して、担当を決めたり。もちろん複数人で当たります。「俺がいないと、この職場は回らない」みたいなことを徹底的に避ける。

白河 あの人がいないと仕事が回らない、というのは実はものすごいリスク。働き方改革を推進したときにも、それは大きな課題になりました。でも誤解を恐れずに言えば、自分は職場に不可欠で満足という状況は、その人のエゴなんです。だって会社にとってはリスクだから。自分が休暇や病気で離れても仕事が回る仕組みを作るのが健全であり、企業の義務でもありますね。

 さかのぼると、長期休暇を導入すると決めるとフランスでも意外な反発があったと聞きます。1カ月も仕事を休んで遊ぶようなお金はない!という意見ですね。確かに、一家でどこかに移動するだけでもお金がかかりますから…。フランスのような反発は、これから長期休暇を取り入れたい日本でも起こる問題だと思いますが、どう乗り越えれば?

高崎 おっしゃる通りです。そこでフランス政府は、国民の行動を変容させるために「余暇調整・スポーツ担当局」という機関を作ったり、年次休暇で旅するときの電車賃を、国の負担で大幅値引きしたりと大胆な施策を実施しました。パリではなく、郊外のリゾートに目を向けさせたわけです。

 現在でも、フランス人の多くがバカンスには海辺に移動します。親や親戚の家に宿泊したり、キャンプをしたりして宿泊費が高額になりすぎないように工夫します。海でバスタオルを敷いて本を読み、暑くなったら海に飛び込む。夜はキャンプで自炊もしますね。バカンス以外の11カ月でコツコツ貯金をしておいて、1カ月はのんびりと楽しむ。そのサイクルが確立しています。それを後押ししたのは国のシステムでした。

白河 素晴らしい!日本ももっと滞在型のレジャーの選択を増やすことが大切ですね。例えば、昔の国民宿舎のように遊休施設を国が買い上げて、長期休暇で利用しやすい値段を設定するとか、海や山で自然に親しみ、健康を増進させるような安価な遊び方をもっとシステムとして整えるとか。そういう休暇の先の過ごし方だって、もっと国や会社が考えていけたら実現に近づくはずです。