少子化対策は待ったなし
合意形成と制度設計を早急に進めるべき

 そもそも、出産費用に含まれるものも出産する施設によってまちまちだ。直接出産にかかる費用に、個室の料金(室料差額)、産後のエステやマッサージ、お祝い膳など、純粋な医療費以外の費用がパッケージされているケースもある。

 だが、防貧対策として作られた健康保険で、個人がぜいたくをする費用まで負担する必要はない。純粋な医療費以外の費用は、すでに健康保険の制度として設けられている保険外併用療養費の選定療養に分類し、保険適用外の費用として位置付ける必要があるだろう。

 医療行為以外の付加サービスがパッケージ化されると、どうしても料金は割高になる。出産費用をできるだけ抑えたい人が、希望しないサービスを受けなくても済むように、保険適用外のサービス的なものは、個人の選択によって利用するかどうかを決められるように、料金の明確化も必要になるだろう。

 さらに、妊産婦の負担を軽減するなら、自己負担部分を自治体が補てんする制度を導入する方法を検討してはどうだろうか。現在、子どもの医療費については、全国すべての自治体が自己負担分に対して助成する制度を設けている。この仕組みを参考に、国が財源を手当てするようにすれば、実質的な妊産婦の負担をゼロにすることも可能になる。

 また、出産費用が自由診療から保険診療に変わることで、産院の経営が立ち行かなくなることがないように、移行期間の運転資金を確保できるような無利子の貸付制度を整える必要もあるだろう。

 すでにある健康保険や自治体の助成制度を応用すれば、医療機関の負荷を抑えながら、出産費用に健康保険を適用することは技術的には可能なはずだ。

 残る問題は、財源と関係者の合意形成だが、少子化対策は待ったなしだ。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、2022年の日本の出生数は77万747人で、統計を取り始めた1899年以来、初の80万人割れとなった。

 少しでも人口を回復させるためには、子どもを産み、育てやすい環境を早急に整える必要がある。出産費用の保険適用は、低所得層の負担を軽減する手段として効果が期待できる施策だ。

 国は、2024年4月から実施する出産費用の見える化の効果を検証した上で、2026年をめどに健康保険の適用を含めた出産費用の支援策の強化を進める方針だ。それまでの間、できない理由を並べて議論を停滞させるのではなく、保険適用の実現に必要な工夫を行い、関係者間の合意を形成してほしいと思う。

 お金の心配をせずに、子どもを産み、育てられる社会になれば、この国の未来は、今よりも明るいものになるのではないだろうか。