“更年期障害”という言葉を
あえて打ち出した「命の母A」

 2005年に小林製薬が買収した「命の母A」。更年期の諸症状を改善する医薬品ですが、それまであまり口にされなかった「更年期障害」という言葉を使用して成功しました。

 老舗の医薬品メーカー・笹岡薬品が販売していた医薬品「命の母A」は、創業者の笹岡省三氏が、病弱だった母親のために開発したとされる薬で、1903年発売という古い歴史を持ちます。

 その後、女性の体に必要なビタミンを生薬の薬に配合した「命の母A」が発売され、笹岡薬品はこれを「女性保健薬」として販売していました。ブランド譲受時の売上は2億円程度でしたが、私はこの製品は年間で30億円ぐらい売れてもおかしくないポテンシャルを持っていると思っていました。

 和漢生薬とビタミン類の複合薬である命の母Aは、効能に、更年期障害と書くことができる数少ない医薬品でした。「女性保健薬」というわかりにくい表現ではなく、当時はまだ一般的な言葉ではなかった「更年期障害」を宣伝に打ち出すことで、その症状に悩む多くの女性に、さらに受け容れられるはずだと考えたからです。

「何となくだるい」「汗が出る」「体がほてる」といった不快感が更年期障害によるもので、閉経前後の女性がなりやすいことを広く知ってもらえれば、命の母Aはお客さまにもっと支持されるはずだ。

 そのように考えて、命の母シリーズの独占販売契約を笹岡薬品と結び、のちに事業を譲り受けたのです。

 命の母Aを「更年期障害の薬」として売ることについては、「こんな古臭い薬は売れないのでは?」といった社内での反対の声も多くありました。それでも私は、この医薬品の効能をわかりやすくお客さまに示すために、更年期障害という言葉を使わなければならない。そうでなければ、この医薬品を販売する意味がないとまで思っていました。

 もちろんその打ち出し方で、嫌な思いをされるお客さまも一定数はいるのかもしれません。もしかしたら、「恥ずかしいから買わない」という方もおられるかもしれない。それでもこの挑戦により、更年期障害への正しい理解が広まり、全体として、お客さまが増えることを信じたのです。