医薬品や衛生日用品というカテゴリーでは、お客さまの体の悩みに応える製品の開発を数多く手掛けることになります。「わかりやすさ」の追求は、ときに「恥ずかしい」「あられもない」といった感情と対峙する場合も出てくるのです。それでも私は、「わかりやすさ」にこだわったのです。

ネーミングへの
こだわりと執念

 当社には「トイレ洗浄中」という商品シリーズがあります。便器の底にたまる黒ズミや黄ばみを洗浄する特徴があるこの商品は現在、「ブルーレット」ブランドの商品として販売し続けています。

 そしてその「トイレ洗浄中」の後に、トイレ洗浄剤の新製品として開発した「さぼったリング」という商品があります。これは、泡と塩素により、便器の喫水線の黒ズミを洗浄する商品です。

 ブルーレットブランドのなかでも、いずれもニッチなマーケットに絞り込んだ「小林らしい」商品です。お客さまにとっての利便性、ベネフィットが明確で、コンセプトもはっきりとしています。

 ただ、私には懸念がないわけでもありませんでした。それは「トイレ洗浄中」というネーミングでした。

 そのようなネーミングは、一つの商品名としては成立しても、ブランドとして一人立ちすることは難しいという経験値が私にはありました。この表現は、確かに「わかりやすい」のですが、誰もが使える、誰もが思いつく、一般的で平易な表現です。

 にもかかわらず、「さぼったリング」の開発段階では、「トイレ洗浄中」を新たなブランドとして独立させ、そのシリーズのなかの一つの商品として「さぼったリング」を発売する計画が進んでいたのです。ネーミングも「さぼったリング」ではなく、「トイレ洗浄中黒ズミ対策」というものでした。

 そこで私は、最終の意思決定をする会議で異議を唱えることにしたのです。「商品名だが、さぼったリング、にしてはどうか!」と。

 喫水線にたまる黒ズミのことを「さぼったライン」と言われるお客さまがいることを私は覚えていました。ブルーレットブランドの宣伝文句として使用していることも頭にこびりついていました。

 どことなく愛嬌のあるこの響きに「小林らしさ」があります。その「ライン」を「リング」という表現に変えて、商品名は「さぼったリング」にすべきだという意思を投げかけたのです。