「小林らしさ」の維持に
必要なセンスとは?

「さぼったリング」という表現にも懸念がなかったわけではありません。くだけ過ぎて、遊び過ぎの表現だとお客さまにとられるかもしれない。しかし、他社はまず付けないネーミングであることは間違いない。すぐにお馴染みの商品にはならないかもしれないが、クスッと微笑みたくなる、わかりやすくて愛嬌のあるこのネーミングを、お客さまが覚えてくれたら……。

 新しいブランドを創造する。育て上げる。その志はこの上なく大切なものです。けれども、冷静な目で分析・把握をしなければならない。お客さまの心に深く広く長く届くものでなければ、ブランドとしての価値を創出することはできないのです。

 その後、「さぼったリング」とネーミングされた商品の業績は好調に推移しました。それを見て、社員の誰もが納得したようでした。

「毎日忙しいから、トイレ洗浄もサボりがちで……」
「それなら、この『さぼったリング』はいかがですか」
「え? それ、なんですか?」
「(パッケージを見て、製品特徴を確認する) ああ、なるほど。こういうのが、あったらいいなと思っていたのよ。助かるわ」

 そのような、お客さまとの微笑ましい対話がイメージできる、この愛嬌あるネーミングの商品は、おかげさまで好調を維持しています。

 ただその後、私としては懸念すべき問題が起こりました。

 2020年のことです。「さぼったリング」の効果や量を増強した新製品開発をしたさいに、「トイレ洗浄中 大盛り泡」というネーミングが提出されてきたのです。「トイレ洗浄中」をブランドにしたいという想いが、社員にまだあったのでしょう。

 会長になってからこの数年は、基本的には最終の意思決定には口を出さないよう努めてきましたが、一事が万事で、こうしたアイデアの提案が続くようになると、それは「小林らしさ」の維持に、見えないダメージを与えかねないという危機感を持ちました。

 店頭で「さぼったリング」と「トイレ洗浄中 大盛り泡」が並んだとき、お客さまにどう思われるか。違う商品が一つずつ並んでいるように見えるはずで、これではいけません。

「さぼったリング」と「さぼったリング 大盛り泡」のツーフェイスでの展開により、「さぼったリング」というシリーズ名をしっかりとお客さまに見ていただく。そうすることで、購入されるさいの「店頭でのわかりやすさ」が演出され、「トイレ洗浄中」を冠に付けるよりも、売上は20パーセントほどアップしたと当社では考えています。このセンスを忘れてはならないのです。