DXの成否を分かつのは「人」
公務員だからこそ、思い切ったことができる

 公務員のやりがいって、一体何だろう。

「われわれ公務員は、レールの上を走らされているんです。私だって、佐藤町長のDX戦略に猛反対していたにもかかわらず、辞令一つでDX室長になりました。職員の意思をまるで無視した人事がまかり通ること自体、恐ろしいことです。だからなおさら、私たちは自分の頭で考え、意志を持って行動しなければなりません。知識と慣習だけで何となくやっていては、生成AIに取って代わられても仕方がない」(小野さん)

 公務員だからこそ、思い切ったことができる。小野さんは、そう信じている。

「公務員は終身雇用で、私のように町長に逆らおうが、よっぽど悪いことをしない限りクビにはなりません。ならば、おかしいことはおかしいと声を上げ、町民本位の行政に変えていくことが、われわれにはできるはずなんです。酒を飲んで愚痴をこぼして喧嘩しているくらいなら、そのエネルギーを改革にぶつけたほうがいい。そんな空気を役場全体にまとわりつかせたい。その一端が、『旅する公務員』なのだと考えています」

 旅する公務員というよりも、物言う公務員じゃないか。

「磐梯町のDXにおいて、小野さんは超重要人物」。デジタル推進PRマネージャーとして民間企業から磐梯町に参画している久慈沙織さんは、そう断言する。

「デジタル変革戦略室には、私と同じく民間から登用されたDX人材がたくさんいます。参加することになった経緯はさまざまですが、小野さんのこの人柄や情熱にひかれて集まっていることは確かです。町の人たちも、『小野さんが言うのなら』というところがあるんじゃないかなと思います」

 自治体DXの闇に差し込んだ、一筋の光。DXの成否を分かつのは、やはりまぎれもなく「人」なのだ。