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対談 漂白される社会
【第1回】 2013年3月11日
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開沼 博 [社会学者],初沢亜利

「被災者」という名前の人間はどこにもいない
“お涙頂戴”で切り捨てられた真実に迫る写真家
【写真家・初沢亜利×社会学者・開沼博】

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原発立地地域をはじめ、売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウスと貧困ビジネスといった、好奇の眼差しにさらされる、あるいは、「見て見ぬふり」をされている存在に迫り続ける社会学者・開沼博。同じく、イラク戦争、北朝鮮、被災地のように、決まりきったストーリーでしか語られない事象の真実を切り取る写真家・初沢亜利。目の前の対象と真摯に向きあう2人が、美しい“お涙頂戴”の震災報道で切り捨てられたものの本質を語る。

大学のサークルがきっかけで写真家の道へ

開沼 亜利さんは何歳から写真を始めたんですか?

初沢 23歳位です。大学4年生の終わりに上智大学の写真サークルに入ったのが最初でした。自分の住んでいる街をちょろちょろと撮り始めて。

開沼 大学3年生までは?

初沢 比較的真面目に勉強していたのと、グリークラブで男声合唱を。

開沼 歌ってたんですか?初耳です(笑)。

初沢氏が写真家を志すきっかけとなった1枚
(作品「Tokyo Poesie」より)
拡大画像表示

初沢 初耳?(笑)。一体どうして写真をやり始めたのかなぁ。そう、写真を始めて2ヵ月位で、上智大学の前の横断歩道を渡っていたら、下校時間に楽しそうに話していた3人の小学生の女の子がいて、ガードレールに上ってパッと写真を撮ったんです。でも、数日後にフィルムを現像して、液体の中で浮き上がってくる写真を見て「あれ?」っと思いました。3人が3人とも別の方向を向いているんですよ。自分が撮ったのに、自分が撮ろうとしたものとはズレたものが映っている。一見仲が良さそうに見える子どもたちだけど、実は人生はそれぞれの道に向かっている、と解釈もできる一枚。でもそれだけではない、何ともざわついた感情が自分の中から沸き上がってきました。写真とは、対象にカメラを向けるなかで、結局は自分の内側を探っていく行為なんです。

開沼 頭の中で想像していた像と、実際に現場で写してしまった像とのギャップへの面白さ。これは学問やノンフィクションの面白さにも通じそうですね。就職活動は?

初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家としての活動を開始する。
写真集・書籍に『隣人。38度線の北』(徳間書店)、イラク戦争の開戦前・戦中のバグダッドを撮影した『Baghdad2003』(碧天舎)、衆議院議員・福田衣里子氏の選挙戦から当選までを追った同氏との共著『覚悟。』(徳間書店)、東日本大震災の発生翌日から被災地に滞在し撮影した『True Feelings』(三栄書房)。

初沢 まったくやってませんでした。

開沼 どうするつもりだったんですか?

初沢 とにかくサラリーマンにはなりたくなかったんですよね。自分で表現できることはないかと4年間模索はしてましたけど、結局5年目、6年目で写真をやったんですよ。留年したわけです。そこで必死に2年間やって、『太陽』という雑誌の賞にノミネートされて、審査員の荒木経惟さんが絶賛してくれたんです。偉大な評価とは人の人生を狂わせるもので、これはちょっとやってみたほうがいいんじゃないかと急に自信過剰になりました。そういった評価を受けるといけるかもと思ってしまうんです。

開沼 意図しないものが写るという面白さと、それが評価されたことへの面白さがあったと。そもそもは、なぜ写真に興味を持ったんですか?

初沢 写真を見るのが好きでした。そこから、「撮ってみたらどうなるかなぁ」という感じです。卒業してもしばらくは作品を作り続けていて、3年後にカラー作品で「ユマニテ」という写真展をやりましたが、あまり評価されることもなく。結局、評価されない限りは商業カメラマンをするしかないので、しばらくは雑誌などでグラビアや好きな車を撮っていました。

新宿・ゴールデン街で誘われてイラク訪問

初沢 でも、そのサイクルに入ってしまうと、クライアントの要求に忠実になっていきます。最初にあった自意識過剰な脳の働きが徐々に失われて、数年が経っていました。そんな時、僕が30歳も手前のころ、新宿・ゴールデン街の行きつけの飲み屋で、新右翼団体「一水会」代表の木村三浩さんから「反戦運動をイラクでやるからカメラマンを一人連れて行きたいが、報道の人は連れて行きたくない」と言われました。2002年の終わりです。

開沼 その方とは初対面だったんですか?

初沢 いえ、店で何度もお会いしていました。その人から「行くか?」と言われて、何となく今の日常から抜け出したいという想いもあり、行くことを決めました。すると、イラクから帰ってから3週間後に戦争が始まり、誘われたので写真展を開きました。その写真展にはいくつかのテレビ局が取材に来てくれましたけど、「どうですか?こんな楽しそうに暮らしていた所に、こんなものが降ってくるんですよ」と“お涙頂戴”に持ってかれて、気がついたら「反戦カメラマン」になっていましたね。

 その時にイラクに行ったメンバーは右も左もごった混ぜで、僕は特に思想的なベースがあったわけでもないけど、彼らは「反米」という点だけが一致していました。そのメンバーの中で、開戦後もイラクに行ったのは僕だけです。

開沼 どれくらいの期間で2回目に行ったんですか?

初沢 開戦から2ヵ月後です。

開沼 2ヵ月も経ってから?3週間前に行ってるから、もう一回頑張ろうという気持ちですか?

初沢 戦争が終わったらすぐに行こうと思っていました。テレビの報道なんて信用していませんでしたけど、とにかく自分の目で見てみようと。開戦の直前に行ってカメラを向けていた責任感、愛着もありました。

開沼 1回目に行ったところと同じ場所に行ったんですか?

初沢 そうそう、バグダッド。1回目に行った時に、「もうすぐ戦争だけど、あなたたちは逃げなくていいの?怖くないの?」といろんな人に質問しましたけど、「我々は血と魂を捧げてサダムを守る」とみんな言うわけです。「実際どうなんだろう」とその時は思っていて、もしかすると、アメリカが戦争をしてくれることを彼らは待ち望んでいるのではという想いもありました。戦後に行った時、彼らの発言がどれくらい変わっているのか知りたかったんです。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 

初沢亜利(はつざわ・あり)

1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家としての活動を開始する。 写真集・書籍に『隣人。38度線の北』(徳間書店)、イラク戦争の開戦前・戦中のバグダッドを撮影した『Baghdad2003』(碧天舎)、衆議院議員・福田衣里子氏の選挙戦から当選までを追った同氏との共著『覚悟。』(徳間書店)、東日本大震災の発生翌日から被災地に滞在し撮影した『True Feelings』(三栄書房)。

 


対談 漂白される社会

売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウスと貧困ビジネス…好奇の眼差しばかりが向けられる、あるいは、存在そのものが「見て見ぬふり」をされる対象に迫り続ける社会学者・開沼博。『漂白される社会』の刊行を記念して、人々を魅了しつつも、社会から「あってはならぬもの」とされた対象やそれを追い続ける人物と語り合うことで、メディアでは決して描かることのない闇の中に隠された真実を炙り出す。

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