DCTの普及に向けて
医療機関でのシステム環境の整備が急務

 現状について、医療の現場で働く医師にも取材を試みた。聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科部長を務める砂川優さんである。

「従来型の治験の場合、参加してくれる患者さんを探すのが難しいのは事実です。特に最近はまれな遺伝子異常を持つがんや希少がんへの治療薬を開発するケースが増えており、治験はますます急務になっています」と現状を話してくれた。

日本の新薬開発が海外より「圧倒的に遅い」理由、コロナ禍で格差が露呈DCTの国内普及を目指す聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科部長の砂川優医師

「日本でDCTを本格的に導入している病院は、まだ数えるほどしかありませんが、愛知県がんセンター薬物療法部では、2022年から実施していますし、国立がん研究センターでも、希少がんを対象に今年、DCTを導入しました。このように治療薬の開発期間を短縮し、治験の地域格差をなくすことが、今の医療には何より必要なことだと考えています。当院でも早い段階でのDCT導入を目指しています」(砂川さん)

 医療現場にも患者にもメリットのあるDCTだが、今後、日本で普及させていくには、課題があるという。

「リモートで診療を行いますので、相応のシステム開発が必要になります、そのための環境を病院側も整備しなければなりません」

 そして何より、医療従事者がDCTを正確に理解して、認知度を高めていくことが先決だと話した。

 こういった現状に対し、今年3月、厚生労働省医薬・生活衛生局から「DCTによる治験のガイダンス」が発行され、国内普及への一歩が示された。また、MICINも4月にDCTの準備委員会を設立し、製薬企業や支援機関のメンバーを集めて、普及を進めている状態だ。

 高齢化がより加速する今後、新薬の開発を望む患者は増えていく。短期間で行え、患者への負担の少ないDCTは、今後の医療に不可欠だと言っても過言ではないだろう。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R))