アリババがCEO交代、その意図は?「古参の逆襲」「新時代」が読み解く鍵Photo:Chesnot/gettyimages

9月10日、中国のEC最大手・アリババグループのCEOが「中国最強のプロ経営者」とも言われた張勇(ダニエル・チャン)氏から呉泳銘(エディー・ウー)氏に代わった。張氏は事実上退任、ほぼアリババグループの経営から離れるという知らせに、人々は驚いた。張氏は、アリババ創業者である馬雲(ジャック・マー)氏に代わり、コロナ禍の苦しい局面で同グループを指揮してきただけでなく、タオバオや天猫のEC事業を大きく育てた人物でもある。このトップ人事にはどのような意図があるのだろうか?(フリーランスライター ふるまいよしこ)

アリババの功労者で、ジャック・マーの後任だった
張勇CEOが董事局主席兼CEOを退くことに

 9月10日、中国大手IT「阿里巴巴 Alibaba」(以下、アリババ)グループは、2019年から同グループの董事局主席兼CEOを務めてきた張勇(ダニエル・チャン)氏がグループ董事局主席を蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)氏に、またCEOを呉泳銘(エディー・ウー)氏に引き継いだことを明らかにした。

 この交代についてはすでに今年6月にそれが予告されていたので、別段驚くようなことではなかった。だが、6月の時点では張氏が「退任後は全身全霊を注いでいく」と宣言した、同グループのクラウド部門「阿里雲 Alibaba Cloud」(以下、アリババ・クラウド)のCEO職まで呉グループ新CEOに引き渡したとの発表が業界を驚かせた。

 今後、張氏は引き続き「アリババパートナー」としての身分は維持するものの、ほぼアリババの経営及び業務から離れ、別途テクノロジー開発研究関連のファンドを設立する予定だという。蔡・新アリババ董事局主席は引き継ぎ完了を伝える社内向けメールで、アリババは張氏に対し、同グループ初の「名誉アリババ人」の称号を贈り、同時に同氏が設立するファンドに10億米ドルを投ずることも明らかにしている。

 張氏は2007年にアリババ創設者の馬雲(ジャック・マー)氏に請われてアリババ入りし、2年後には当時同グループの最強業務だった電子商取引サービス「淘宝 Taobao」のCEOとしてショッピングキャンペーン「双十一 W11」(以下、「ダブル11」)を展開し、同サービスを中国だけではなく世界有数のコマース事業に育て上げた。その張氏に対し、アリババグループは最大の敬意を払ったといえるだろう。

 だが、一方で張氏の後任として董事長職についた蔡崇信氏は、アリババが設立直後に資金繰りから倒産の危機に直面したときに米ゴールドマン・サックスから500万ドルの投資を引き寄せて救ったことで「財神」と呼ばれる、「アリババ古参」である。また、新たにグループ及びアリババ・クラウドそれぞれのCEOに就任した呉泳銘氏は、アリババ創設前から技術者として馬雲氏とともに働き、そのままアリババの創設メンバー「18羅漢」の1人となった。今では社員20万人を超えるアリババの中で社員番号4番を持つ、アリババ技術職員第1号である。

 つまり、予定されていた交代とはいえ、予想外のアリババ・クラウドCEO移譲という出来事に、業界メディアはこれを「古参メンバーの逆襲」とか「アリババ新時代」という言葉を使い、アリババは今後、張勇時代にきっぱりと別れを告げ、まったく新しい時代にかじを切ったと伝えている。