漫画家・いわしげ孝さん
との出会い

『まっすぐな道でさみしい――種田山頭火外伝――』をはじめとし、素敵なマンガをお描きになる漫画家のいわしげ孝さんも、私と同い年。知り合った時に私から29年の午年の会に誘い、いわしげさんもメンバーとなりました。

 いわしげさんが会の最中に、「大事なのは50代です。50代をどう生きるかにより、人生は変わりますから」とおっしゃったことをよく覚えています。

 いわしげさんとは特に親しくなり、私が「会は3カ月に1回しかないから、もっと連絡をとりあってふたりで食事でもしましょう」と提案しました。しかし、連絡をとろうにもいわしげさんは、「僕、携帯電話は持っていないです。仕事場にファックスしかない」と言うのです。

 時はもう2000年代。今時、携帯も持っていないのか、不便だなと思いましたが、仕方なくファックスで店の場所をお知らせし、待ち合わせ日時を決めました。

 それからわずか2週間後。いわしげさんは、なんと携帯電話を持って店に現れたんです。

「あれ? 携帯……」と私が反応すると、いわしげさんはケロッと、こうおっしゃいました。

「ええ。1週間前から持ちました。鶴太郎さん、メールやりましょう」
「ええっ!メールまで!実は僕……メールまだやってません」
「メールは便利ですよ。便利なものは使わなきゃいけません」
「何言ってるんですか!この前まで携帯さえ持ってなかったのに」

 これには笑ってしまいました。わずか2週間ですっかり立場が逆転し、私より先を行っているのですから。

「鶴太郎さん。流行をバカにしちゃいけません。流行をバカにするから孤独な老人が増えるんです。“不易流行”。年老いても流行は尊敬して、取り入れていきましょう」

書影『老いては「好き」にしたがえ!』『老いては「好き」にしたがえ!』(幻冬舎)
片岡鶴太郎 著

 不易流行とは、いつまでも変わらない本質的なことを忘れず、新しく変化を重ねるものも取り入れることを示した、松尾芭蕉の俳諧理念の一つ。

 思うに、流行に否定的になるのと頑固さは比例していくのではないでしょうか。年をとればとるほど、頑固になる傾向にありますよね。頑固は自分の可能性を狭める。やはり常にフラットでいて、新しいものを取り入れていったほうが世界は広がります。新しいことを知ると、それまでこうだと思っていたことが、その後になって違っていたとわかることもありますから。

 私は50代で多くのことを学びました。だから、たとえ今悩んでいても大丈夫です。悩む時期も無駄にはならないのです。