基金の集約と拡充、
アセットオーナー活動も目的か?

 さて、政府の目的は、単に国民の「貯蓄から投資へ」を一歩進めることだけではなさそうだ。

 資産規模がせいぜい数百億円程度で、フルスペックの運用体制を持つには規模が小さいDB企業年金基金を集約して大きなものにしたいという思惑が見え隠れする。あるいは基金自体を集約しないまでも、運用を共通化するなどして、年金基金を「アセットオーナー」としてのスチュワードシップ活動(財産管理を任された者の責任を果たす活動)に取り組ませたいとの、「一見より高次元の」(もちろん皮肉だ!)目的もあるように推察される。基金が投資先企業と対話したり、ESG(環境・社会性・企業ガバナンス)投資に取り組んだりすることを期待しているようだ。

 前述の日経の記事には、「投資先との建設的な対話を促す原則『スチュワードシップ・コード』を導入する年金基金は60程度にとどまっているのが実態だ」とあり、その背景として基金の人材難を挙げている。

 基金は必要に応じて議決権行使に関心を持つべきだが、投資先との有効な対話を彼らに求めるのは「手段の割り当てが非効率的だ」と思われる。そのような本来手間のかかることを年金基金に担わせるのは余計だし、実際には、議決権行使アドバイス会社を使ってコストを掛けたり、世間の様子を見たりして、体裁を整えるだけに終わるだろう。

 筆者がかつて関わった、運用資産数兆円レベルの年金基金にあっても、実質的に意味のある対話が企業とできるような体制には全くなかったし、そうした体制を真面目に作るのは運用の改善につながらない余計なコストであるように思われた。