まず、DBにあっては、運用成績の相対比較を意識することを通じて、リスク資産への投資を増やすよう促したいのだと思われる。記事の見出しにある「予定利率」とは、年金制度設計上の積立金の想定利回りのことだ。予定利率を高くすると、同じ将来の給付に対して拠出すべき掛け金が少なくなるが、高い利回りを目指すために通常は株式などのリスク資産への投資を増やさなければならない。

 一方、運用のリスクを最終的に負う企業の側では、DB年金の運用失敗による負担を避けたいと考えるため、長引く「ほぼゼロ金利」を背景に、予定利率はこれまで低下する傾向にあった。バブル崩壊を背景として、1990年代、2000年代に企業年金の損失負担に苦しんだ悪い記憶の影響もあって、企業年金では余計なリスクを取りたくないと考える企業が多かった。企業側に運用リスク負担があるDBを廃止ないしは縮小して、DCに移行する企業も少なくなかった。

 多くの企業にとって、資産運用は本業ではない。企業年金でリスクを取りたくないという方針は経営判断として妥当だったといえるだろう。

運用成績が公開されると
一体何が起こるのか?

 では、ここでDBの企業年金基金ごとの運用成績が公開されて、加入者が横比較をすることができるようになると何が起こるだろうか。もちろん、マーケットの動向に左右されるのだが、予定利率を低く設定して安全第一で運営しているDB基金は、運用利回りが相対的に低くなって肩身の狭い思いをする公算が大きい。

 早くても2、3年はかかるような時間軸の中でだが、DB企業年金基金の運用計画は比較的短期間のうちに相互に似たようなものになりながら、リスク資産への投資比率を高めることになりそうだ。

 加入者は自分が加入する企業年金の運用利回りが他の基金に比べて低いと、不満に思うだろう。正しくはリスクまで考慮に入れて評価すべきだが、リターンの単純比較が注目されるはずだ。当該企業年金基金は、他の基金に合わせてリスク資産の組み入れ比率を上げる対応を取る場合が多いと予想される。

 マーケットが不調な場合も「他の基金と同じくらい(悪い)なら言い訳ができる」と割り切れば、リスク資産を積み増すことに大きな抵抗はないのではないか。