ダイヤモンドクォータリー編集部では、製造業の経営層や次世代リーダーを対象に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代における「日本のものづくり」のあり方をともに考えるワークショップを含めたセミナーを企画し、8月29日と9月21日の2回にわたって実施した。有識者による基調講演と特別講演、先進的なSXに取り組む大手メーカーを招いたパネルディスカッションも行われた当日の模様をリポートする。

製造業の未来:SX時代における「日本のものづくり」を考える【イベントリポート】

*本稿は、2023年8月29日、9月21日に開催された「ダイヤモンドクォータリー 次世代リーダー育成塾:製造業の未来 SX時代における『日本のものづくり』を考える」(主催:ダイヤモンド社ビジネスメディア局、企画:ダイヤモンドクォータリー編集部、協賛:富士通)の内容を採録したものです。

循環経済は環境対策ではなく、
経営戦略である

 8月29日の基調講演には、東京大学大学院 工学研究科 人工物工学研究センター 教授の梅田靖氏が登壇、「製造業のサステナブル&サーキュラー・バリューチェーンを目指して」と題した講演を行った。

 冒頭で梅田氏は、「時代認識としてサステナビリティを企業活動の“中心”に取り込まないと、企業はやっていけなくなる」と述べた。世界的なコンセンサスとなっている「2050年カーボンニュートラル」のように、「Absolute Sustainability(絶対量で測る持続可能性)が大前提となっている」ことから、「企業の全部門が、自分たちの活動と社会や環境がつながっていることを認識する必要があり、それを浸透させるのが経営者の仕事だ」と強調した。

 梅田氏は、サステナビリティ経営が世界的な潮流となっていることを、ヨーロッパで進むサーキュラーエコノミー(循環経済、以下CE)を例に具体的に説明した。EU(欧州連合)は2015年にCEの政策パッケージを発表。これは、大量生産・大量販売で成り立ってきた従来の資本主義経済の仕組み自体を変え、資源循環が当たり前に成り立つ経済、社会をつくろうとするものである。

製造業の未来:SX時代における「日本のものづくり」を考える【イベントリポート】東京大学大学院 工学研究科 人工物工学研究センター 教授 梅田 靖 氏
東京大学大学院 工学系研究科 精密機械工学専攻 博士課程修了。博士(工学)。1999年東京都立大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 助教授、2005年大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 教授、2014年東京大学大学院 工学系研究科 精密工学専攻 教授、2019年より現職。著書に『サーキュラーエコノミー: 循環経済がビジネスを変える』(勁草書房、2021年)など。

  たとえば、コンピュータサーバーや冷暖房機器などエネルギー消費量の大きい電子・電気機器などを対象としていたエコデザイン指令を「エコデザイン規則」に格上げする案が2023年6月、欧州議会の委員会で採択された。エコデザイン規則は幅広い製品に適用され、耐久性、再利用可能性、改良・修理可能性、エネルギー効率性などを備えた循環型製品の提供と、トレーサビリティ(追跡可能性)を確保するためのデジタル情報の開示が義務づけられる。そのほか、ISO(国際標準化機構)でもCEの規格整備が進む。

  こうしたルール策定に対して、ヨーロッパ企業は先手を打っている。シーメンスは、事業部ごとの特性に合わせて、「プロダクト・アズ・ア・サービス」(PaaS)など5つの循環型ビジネスモデルを設定。IoTプラットフォームの成功事例として知られる「Mindsphere」(マインドスフィア)をCEでも有効活用している。

 梅田氏は、「ヨーロッパの製造業では、サステナビリティ革命とデジタル革命の文脈の中で、CEが環境対策ではなく、経営戦略と位置づけられている」と語り、「法律やガイドラインが策定される前から準備を整えれば、ミニマムコストで先手を打ち、競争優位に立つことができる。逆に何もしないと椅子取りゲームで負ける」と警鐘を鳴らす。

 我が国の産業がいま本質的にやらなくてはならないのは、「大量生産・大量販売型ビジネスからの脱却、すなわちモノ売りから“価値売り”への転換」であり、それを実現するためのアプローチとして梅田氏は、「Vision-Meso-Seeds(ビジョン-メゾ-シーズ)モデル」(VMSモデル)を提言した。