社員の遅刻を、懲戒処分扱いにすることは可能?

 次の日の午後、C専務は別件で会社を訪れたD社労士の顔を見るなり、「至急、相談したいことがあるんだけど……」と言い、応接室に通すとBの件の詳細を話し始めた。

 そして最後に、「B君には、A課長が何回注意しても遅刻を繰り返すことを反省してもらうため懲戒処分にし、処分内容とB君の名前を会社の掲示板に張りだそうと思う」 と宣言した。

「C専務のお考えは分かりました。しかし実行に移す前にまず、『Bさんの遅刻を懲戒処分扱いにできるか』を確認する必要があります」

<Bの遅刻を懲戒処分扱いにできるか>
(1)懲戒処分とは、企業のルールに違反した従業員に対して行われる制裁罰のことである。

(2)対象者を懲戒処分にするには、次の〈1〉〈2〉の条件を全部クリアする必要がある。

 〈1〉就業規則等に懲戒処分の種類(「けん責」「出勤停止」「減給」「降格」「懲戒解雇」など)と、種類に対応する処分理由、懲戒処分を行う際の手続きに関すること(「弁明の機会を与える」など)など、懲戒規定の明記がされていること。
 〈2〉就業規則に〈1〉の明記がある場合でも、本人にヒアリングをするなどして、遅刻の原因を特定したのち、最終的に懲戒処分ができるか否かを判断すること。
  ○ 遅刻の原因が上司からパワハラを受けているなど社内にある場合、本人の健康状態の悪化や、介護が必要な家族がいるなど家庭の事情等の場合は、原則懲戒処分の対象外とされる。上記のケース等は遅刻の原因を解消するために社内での対処が必要である。
  ○ 遅刻の原因が本人の責任の場合(Bのケースはここに該当する)、複数回口頭での注意や指導を行い、改善しない場合は文書での注意、指導もあわせて行う。それでも改善が見られない場合、懲戒処分の対象(「けん責」などの軽い処分)にすることを検討する。

(3)軽い懲戒処分を行っても、遅刻が改善されない場合は更に重い処分「減給」などを行うことを検討する。

(4)懲戒処分を行う場合、就業規則の懲戒規程に該当している必要があるので確認すること。例えば会社の懲戒規程に「減給」の項目がないのに減給処分をすることはできない。

(5)処分理由については、就業規則に「遅刻をしたこと」などと具体的に書かれていなくても、「業務上の指示に従わなかったとき」「会社の風紀秩序を乱したとき」「職務に専念しなかったとき」などの項目が該当する。

「9月以降はB君が遅刻して出勤するたびに、A課長がその場で注意、指導をしていたし、当社の就業規則には懲戒規程としての明記もある。だから『けん責処分」は可能だね」
「待ってください。処分する前にBさんに次の内容を話してみてはどうでしょう。これで遅刻がなくなれば、けん責処分にしなくても済みます」