検察官が懲役3年を求刑したのは
執行猶予を求めるサイン

 執行猶予が付く要件だが、刑法25条の規定で懲役3年以下でなければならない。法曹関係者や司法担当記者の間では「判決は求刑の7~8掛け」とよくいわれる。そのため、検察側が懲役4年以上を求刑した場合は「実刑」、同3年以下は「執行猶予」を求めているサインといわれる。その間の同3~4年は「裁判長にお任せ」ということになり、被告は判決言い渡しの期日まで眠れぬ夜を過ごすことになる。

 今回のケースは自殺幇助罪ではあるが「死亡したのが2人」という点をどうみるかという部分が唯一の争点だった。これについて、むしろ検察側が「執行猶予で十分ですよ」というお墨付きを与えたという見方もできるわけだ。

 それでは、検察側の聴取に「自分には歌舞伎しかない。許されるなら舞台に立ちたい思いがある」と供述し、公判で尋ねられた職業にも「歌舞伎俳優です」ときっぱりと答えた猿之助被告の今後はどうなるのか。

 猿之助被告は明治期から続く名門「澤瀉(おもだか)屋」をけん引し、女形や立役もこなす押しも押されもせぬ大スターだ。12年に「スーパー歌舞伎」で注目された伯父・猿翁さんの後を継ぎ四代目猿之助を襲名。

 人気漫画が原作の「スーパー歌舞伎II(セカンド)ワンピース」で豪快な立ち回りや迫力ある宙乗りで人気絶頂だった。来年2~3月には東京・新橋演舞場で人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃」をベースにしたスーパー歌舞伎も予定されていた。

 筆者の後輩である全国紙社会部デスクによると、情報交換していた文化部デスクがこう話していたという。「大御所が『親の死に目に会えなくても舞台に上がれと言われる世界で、親の死に手を貸し、舞台に穴を開けた。万死に値する』と怒っていた。復帰には時間がかかるかもしれない」。

 ただ、猿之助被告に近い芸能事務所関係者は「(問われたのが)同意殺人罪じゃなく、自殺幇助罪だったのは救いだった」と安堵(あんど)していたという。というのはほかの芸能関係と同様、新型コロナウイルス禍で興行が減り、客足も落ちていた。猿之助被告は公判の最終意見陳述で「僕にしかできないことがあればさせていただき、生きる希望としたい」と述べた。同関係者が早期の復帰を望んでいるのは明らかだ。

 判決で執行猶予の理由について、安永健次裁判官は「社会的制裁は既に受けている」と説明した上で、こう説諭するのではないだろうか。

「ご両親の分もしっかり生きて、自分の世界に貢献することで罪を償ってください」