経済成長から人々の幸福へ
世界的な価値観の変化

「ウェルビーイング」という言葉が、世界的に注目されるようになった大きなきっかけといえるのは、2021年5月に開催予定だった世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)をめぐる出来事です。

「第二次世界大戦後から続くシステムは環境破壊を起こし、持続性に乏しく、もはや時代遅れだ。人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」

 ダボス会議の開催にあたり、世界経済フォーラムの創設者であり会長でもあるクラウス・シュワブ氏が発言したこのコメントが、今のウェルビーイングの大きな流れをつくったといってもいいでしょう。

 ダボス会議で討議されるテーマは、世界に強い影響力も持つといわれています。2021年開催予定だったダボス会議は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、延期に追い込まれましたが、この年に話し合う予定だったテーマは「グレート・リセット(The Great Reset)」。従来の経済を中心とした社会システムから、幸福(ウェルビーイング)中心の社会への転換が示唆されるはずでした。

 このようにウェルビーイングが注目されてきた背景には、世界的な価値観の大きな変化の流れがあると私は考えています。

 これまでの社会では「経済成長」に価値の重点が置かれ、GDPなどの指標を追求することが中心となって、経済合理性がないものは重要視されませんでした。その結果、貧困と飢餓の問題が深刻化し、地球環境の悪化や拡大し続ける格差など、経済合理性にフォーカスをしていては解決できない課題が無視できないレベルとなっています。