「人的資源」から「人的資本」に
企業が考えるべき個人の”働きがい”

 2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されたことも日本でウェルビーイングが注目されるきっかけの一つになりました。

 対象企業は、金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4000社の大手企業で、有価証券報告書の中に、サステナビリティ(持続可能性)情報の記載欄が新設され、人材育成や環境整備の方針・指標・目標などの明記が必須になり、企業の多様性に関連する「女性管理職の比率」や「男性の育児休業取得率」「男女の賃金格差」などの項目についても開示を求められるようになりました。

 これまでの人事領域では「人的資源」という言葉が主流でした。「人を資源として捉え、できるだけ効率よく消費する」という考え方で、人にかかる費用を「コスト」と見なします。

 一方、人的資本では、「人に投資して能力を磨き高めることが、社会や企業に利益を生む」と考えます。人にかかる費用はより大きな成果を生むための資本であり、投資すべき対象となります。

 労働は、人生において大きな意味を持つものです。生活するためのみならず、やりがいや生きがいなど、個人がウェルビーイングを実感できるかどうかは、働き方に大きく影響されるといってもよいでしょう。

 アカデミアの領域においてもウェルビーイング学会が2021年12月に立ち上がり、2023年3月5日には、第1回学術集会がオンラインにて開催されました。

 また武蔵野大学(東京都)は、2024年4月に新学部「ウェルビーイング学部」を武蔵野キャンパスに開設すると発表。

 大学によると、日本初のウェルビーイング学部として、「慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科前野隆司教授を学部長に迎え、科学や技術の最先端の知見や成果も取り入れた学際的なアプローチによって、幸せ・生きがい・安心・福祉・健康・平和など、人々と世界のウェルビーイングをデザインし、創造していく人材を育成する」としています。

 ウェルビーイングは、持続可能な開発目標を指す「SDGs」の一部でもあります。SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を(Good health and well-being)」に、福祉の意味でウェルビーイングが使われ、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標8「働きがいも経済成長も」も、ウェルビーイングに深く関わる目標といえます。

 ウェルビーイングはSDGsの達成に大きく貢献する概念であり、世界的にも今後ますます必要と認識されていくことでしょう。

 ウェルビーイングの潮流によって、生活者の暮らしがどのように豊かになるのか。この連載では、私の本業でもあるマーケターの視点でお話ししていこうと思います。