半導体戦争 公式要約版#8Photo:simon2579/gettyimages,Yuichiro Chino/gettyimages

原油と同じで、半導体なしで生きていくことなど不可能だった。米国が「半導体産業のサウジアラビア」になりつつある日本を憂慮するのは当然ではないか――。半導体を巡る国家間の攻防を描き、週刊東洋経済の「ベスト経済書・経営書2023」にも選ばれたクリス・ミラー著『半導体戦争』では、1980年代の日米半導体戦争も手厚く解説している。特集『半導体戦争 公式要約版』(全15回)の#8では、米国が半導体産業での日本の躍進に警戒感を強めていく舞台裏を描く。

半導体は「1980年代の原油」だ
日本に危機感を募らせた米半導体産業

 パロアルトの肌寒い春の夜、中国料理店「ミンズ」に、ロバート・ノイス、ジェリー・サンダース、チャールズ・スポークが集まった。3人はいずれもフェアチャイルドでキャリアを開始した。

 先見の明を持つテクノロジー専門家、ノイス。カリスマ性のあるマーケター、サンダース。もっと速く、もっと安く、もっと正確につくるよう従業員たちに発破をかける製造業界のボス、スポーク。それから10年後、3人はアメリカの3大半導体メーカーのCEOとしてしのぎを削る関係になっていた。

 しかし、日本の市場シェアの拡大にともない、3人は再び団結するときが来たと悟った。何せ、危機に瀕しているのはアメリカの半導体産業の未来なのだ。

 半導体は「1980年代の原油」だ、とサンダースは言った。「その原油を支配する者こそがエレクトロニクス産業を支配するだろう」。アメリカ随一の半導体メーカーであるAMDのCEOだった彼には、自社の主力製品を「戦略的に重要」だと表現する利己的な理由がごまんとあった。

ジェリー・サンダース氏AMDの共同創業者で長年CEOを務めたジェリー・サンダース氏は、半導体は「1980年代の原油」だと指摘した Photo:Alamy/AFLO

 しかし、それは嘘だろうか?1980年代を通じて、アメリカのコンピュータ産業は急速に拡大した。だが、集積回路がなければ、コンピュータは動かない。1980年代を迎えるころには、飛行機、自動車、ビデオカメラ、電子レンジ、ソニーのウォークマンもそうなっていた。今や、アメリカ人全員が自宅や自動車に半導体を所有し、多くの人が毎日何十個という半導体の世話になっていた。

 原油と同じで、それなしでは生きていくことなど不可能だった。そんな製品を「戦略的に重要」と呼ぶことのどこがまちがいだろう?アメリカが、「半導体産業のサウジアラビア」になりつつある日本について憂慮するのは当然ではないか?