東京都心に農園ができる。

 東京都渋谷区は小学校跡地などを利用し、来年4月、渋谷区内3ヵ所で区民菜園を開く。恵比寿ガーデンプレイス隣接の小学校跡地、渋谷駅近くの小学校体育館跡地、参宮橋駅横の空き地――東京以外にお住まいの読者は不案内だろうけれど、場所はいずれも超一等地で、地価は目が飛び出るほどに高い。不動産業者に時価評価を頼んだら、最も高額な渋谷駅近くの小学校体育館跡地は1平方メートル500万円、3ヵ所の土地合計2330平方メートル(約700坪)で総額なんと75億円にも上る。

 これは、区民に潤いもたらす好企画か。それとも、財政規律の弛緩だろうか。

 ありふれた公園ではなく、菜園なのがミソであろう。渋谷区は、利用者を区民かつ高齢者か子育て中の家族に限定、使用料は10平方メートル、月1000円程度と格安で、「介護予防や家族の連帯感を育む場にしてほしい」と区民心をくすぐる。渋谷区民にすれば、菜園を利用できなくても、住環境の付加価値も上がろうというものだ。歓迎する向きは、多いだろう。

 一方、これは巨額の機会損失ともいえる。渋谷区がこれらの土地を売却も民間活用による高度利用もしないのは、財政潤沢ゆえである。する必要がないのである。だが、想定できる土地からの収益を借金返済や減税に回す方策もある(菜園が必要なら、東京都下の市町村と提携すればいいのである)と選択肢を提示されたら、区民はどちらを選ぶだろうか。

 実を言えば、地方自治体は決して減税しようとはしない。なぜなら、決められた標準税率以下に下げると、地方財政法上、地方債などによる新たな借金ができなくなる。借金ができなくなれば、公共工事も思うに任せず、さまざまな権益が失われてしまう。減税などするはずがないのである。実際、裕福な渋谷区も今年平成18年度は14億円の区債を発行している。