「頼れる人」になる方法

 アフリカ某国から帰国した後は、150以上の大使館の連絡係になったことは先ほどお話しましたが、就任当時のこの部署はどこの大使ともつながっていなかったので、連絡係とは名ばかりでした。
 
 私の前任者たちは、大使館と懇意になることで「コールセンター」のようになってしまうのを嫌がりました。大使たちと接触を図ることもしなければ、「大使が夏休みなので本国に帰っています」などどうでもいい情報ばかりを集めていました。あとは、新聞を切り抜いて、定時に退社して、居酒屋に散っていく姿を見て、「こうじゃねえだろ」と思っていました。

 なので、私が大使館の連絡係になったときには、ゼロから大使館との関係を築いていく必要がありました。その手段として選んだのがブリーフィングです。
 
 日本は地震の多い国なので、どうやって避難したら良いかなど、ハザードマップを見せに回るブリーフィングから始めました。その流れで、意外と知られていないのですが、日本の110番では、英語で話すと、オペレーターが英語に変わることなども伝えました。外国人はこれを知っているだけで、日本国内でアクシデントがあったときに、対応しやすくなります。こうした地道なアポで大使館に出向いて、説明してあげることを繰り返しました。どんな大使でも、日本に滞在している以上は、必要な情報なので、アポを入れたら、ほとんどの大使は応じてくれるのです。

 こうしてブリーフィングで回っているうちに、相談されることが増えていきました。例えば、ネパール大使館だったら、「旧ネパール王室の関係者が現在〇〇県に留学中なのですが、行方不明になりました。どうしたらいいでしょうか。しかし、公には動きたくないのです」と私の携帯に電話がかかってくるわけです。「では、私の外事警察の人脈で、内密に動いてもらうように、〇〇県警に言うので、そこと相談してみてもらえますか」と回答するわけです。そうしたら、もう大感謝ですよね。他には、警察を挟みたくない事案が発生していたとしたら、私が知り合いの民間探偵会社を紹介してあげたりなど、ブリーフィングから始まった関係が、何でも相談できる頼れる人に変えることができます。前任者たちが嫌がっていたコールセンターです。私はそれを良しとして積極的に引き受けていきました。

 皆さんは人にお願い事をするときに、「こんなことお願いしてもいいのかな」とか「こんな時間に失礼じゃないかな」など考えて躊躇した経験はありませんか。そもそも相手が困ったときに連絡するかどうかを迷われてしまったらダメです。「夜中でもいい」「どんな相談でもいい」としっかり伝えておかなければ、電話はかかってきません。実際に夜中にかかってきても、すぐに電話に出て相談を聞きました。ある種の自己犠牲ですが、そこまで相手に献身することではじめて人から信頼されることができるのです。この連載で繰り返し述べているように、人間関係はギブアンドテイク。そして、常に問われているのは「あなたがどれだけギブすることができるか」ということなのです。