目の前の相手を観察するだけでは
本音は決して見抜けない

 先ほど、プロファイリングといっても、最後は「総合的な判断」と言いました。やはり人間の本音を探るには、言動も大事ですが、いま目の前にいる人に前回会ったときと違う点はないかを探すことが最も重要です。
 
 私は人に会う際にその人の「変化」を見つけようと常に気張ってます。協力者に会うときもそうです。「いつもと違う髪型だ」とか「普段着ない色やシルエットの服を着てる」といった。わかりやすい「見た目」の変化だけでなく、「いつもは対面で座るのに、今回はあえて隣に座るカウンター席を選ぶ」とかがあれば、「今日はこの場面を誰かに見せて録画をしたいのか」などと私は警戒します。いつもと違う「行動」を取ったら、その変化を絶対に見逃してはいけません。

「今日はやけに周りを気にしている」という変化を感じたら、「私に協力していることがバレた」とか「警察官と名乗っていない私を警察官だと疑い始めた」とか「彼がなにかのトラブルに巻き込まれるんじゃないか」と勘ぐっているんだろうなと推察します。

 現場での違和感がプロファイリングのほとんどなので、実際は心理学の知識なんて半分も役に立ちません。「顔を触る癖があると何かを隠している」「貧乏ゆすりは焦っている証拠」などは参考程度です。「個人の癖」にすぎないケースもよくあるからです。

 普段は顔を触らない人が顔を触り出したら何かを隠していることを疑うべきですし、いつもは行儀よく座っている人が貧乏ゆすりをしていたら焦りや不安を感じているのかもしれません。繰り返しますが、大事なのは「変化」なのです。

 だから、プロファイリングで相手が本音で話しているか、建前や嘘を話しているのかを判断するにはセンスが必要なのです。変化は一瞬で判別できるものではなく、違和感から始まります。つまり、小さな変化に違和感を抱くことができる視覚的なセンスがない人には難しい。たとえば、身近な人が髪を切ったときに気がづかない人は諦めたほうがいいでしょう。

 一般の人がここまでやるかどうかは別として、「いつもと違う」ということを察知するためには、それぞれの人ごとに気になった点をメモすることもできます。特に1回目、2回目ぐらいの情報は、比較の基準となるため重要です。ただし、最初は相手が緊張していたりするから、2回目あたりの信憑性はかなり高いです。私が公安のときも1、2回目がその後の異変を察知する基準になることが多かったです。

 私にとって、変化を見つける材料集めは職業病のようなもの。こうして取材を受けている間も、ここにいる人たちの特徴を頭の中に記憶しています。現役ではないので、家に帰ってメモしたりはしませんけどね。