ーー清掃中に身の危険を感じたことは?

有山 山間部が多い兵庫県を担当しているのですが、全長が数十センチもあるムカデが何匹もでたり、40センチぐらいのヘビを木と間違えてつかんで腰を抜かしたスタッフもいました。蜂も多くて害獣・害虫が僕の場合とても多いですね。

【ゴミ屋敷】清掃歴10年のプロが振り返る「最も壮絶だった現場」サービススタッフ山田一仁さん、「熱意を持って全力で。」がモットー 提供:ゴミ屋敷専門パートナーズ

山田一仁(以下、 山田) 基本的には狭くて足場が悪いところでの作業となるので、重たいものを運ぶときはかなり注意が必要ですね。金庫とかピアノとかを持ちながら、移動していると床が抜けたり、転倒したりする危険があります。実際に私も何度かヒヤッとさせられたことがあります。

石田 包丁が上向きに置いてあったりとか、ガラスが割れてたり、食器が割れてたりというのも危険なのですが、実は作業中は気を張ってるので怪我はあまりしません。むしろ、作業後にお客さんが仕分けした袋を運んでいるときに、太ももあたりに急に痛みというか何か電気みたいなのが走って何だろうと思ったら、袋の中の包丁が太ももに刺さっていたことがありました。

ーーゴミ屋敷に一つだけアイテムを持っていけるとしたら、何を持って行きますか?

有山 僕はアレルギーの薬ですね。お気に入りの市販薬があって、それがマスト。あれさえあればどこでも作業できます。逆に何かあれがないとどうなっちゃうんすか。

 先ほどペットの話をしましたが、清掃をしていると動物のアレルギーになってしまうんです。僕は犬、猫、ウサギ、ハウスダストがほぼ駄目になってしまいました。仕事中はそこまで気にならないんですけど、帰宅してからの発作であったりとそういうのが激しいので市販薬は必須です。
 
山田 商売道具のゴミ袋ですかね、袋さえあれば、正直、何とでもなるります。仕分けも全部袋ごとに分けられますし、色々足りないけど最後まで仕事ができます。

石田 僕も同意見ですね。ゴミ袋さえあればどうにでもなりますし......。その次に持って行くんだったらスコップとかちりとりですね。

ゴミ屋敷で気づかされた
「捨ててはいけない人の心」

ーー守りと攻めで別れましたね。これまでゴミ屋敷で拾ったもので印象深いものは何ですか?

山田 お客様の家で回収したもので値段が付くものがあればそれらを換金してお客様の作業代から引かせていただくということもしています。

 ブリキのおもちゃとかフィギュアとか、レトロなものとかそういったものが出てきたときに大体の相場観をお伝えして、買取させてもらいました。最高で200万円の値がついたこともあります。鉄人28号やゲッターロボ、昔の仮面ライダーとか、レアなものだと1個で数十万円の値がついたりします。

 ただ、保存状態としてはかなり悪いです。もちろん修繕したり綺麗にしたりするのですが、やっぱり臭いがもうこびりついてるとか、もう汚れがもう中まで入り込んでると、正直、買い取りするのは難しくなります。

石田 確かに、ロレックスや金の延べ棒が出てきたり、数百万円のお宝が見つかったり、お医者さんのご自宅でウイスキーの「山崎」のヴィンテージが大体120万円の値がついたりすることもありました。

 金額的にもびっくりするものも印象に残っているのですが、そうではない文脈で印象に残っている拾得物がありました。

 ある女性から「亡くなった父の部屋を片付けてほしい」という依頼がありました。父と娘の関係は長い間にわたって絶縁状態で「どうせゴミしかないから、作業代は安ければ安いほどいい」と言われました。私たちは「何か大事なものがあると思うから荷物の仕分けをしたい」と申し出たのですが、聞き入れてもらえませんでした。そこで、ひたすらゴミとして処分する作業費だけいただいて、実際には仕分けをしながら片付けをすることにしたのです。

 実際作業を始めてみると、本当に全部ゴミしかありませんでした。「何か売れるものはないか」と押入れの中を探していたときです。膝ぐらいの高さの段ボール箱が奥にポツンと置いてあるのを見つけました。段ボール箱を開くと手紙がたくさん入っていて……仕分けのために一番上にあったものを開くと「俺が頑固でほんまにごめんな。本当はお前とやり直したくて、お前を1人にさせるのは本当に胸が苦しかったよ」という趣旨のお父様の本当の気持ちがつづられていました。娘さんもそれを読んだ瞬間に「私も頑固だった。後悔しかない」と言って泣き崩れていました。娘さんがお父様の本心を知ることができて本当によかったと思って、「この事実を知って生きていくのと、知らないで生きていくのでは大きく違ったと思います。お墓参りにいってあげてくださいね」と声をかけました。

 ゴミの中にも貴重な思い出の品があるかもしれないし、私たちがゴミだと思っているものでも家主にとっては大切なものかもしれない。ゴミ屋敷の清掃は、ただ部屋を片付けるだけではなく、家主の人生すら左右しかねない仕事なのだと心に留めています。