どのように死ぬか?100歳の直木賞作家、佐藤愛子の意外な答えPhoto:JIJI

損をしないようにとがんばれば、生きにくくなるだけ。100歳を迎えた直木賞作家、佐藤愛子さんは現代人が損得勘定で動くようになったことを嘆く。作家として時代を捉え続けてきた佐藤さんが指摘する「日本人が変わった転換点」とは。さらに、「どのように死にたいか?」という問いにも驚きの死生観を披露してくれた。(取材・構成/山口雅之)

損得に一喜一憂するのは
下衆な人間

――佐藤さんはお金には……。

 まったく執着しません。約束の講演料がいただけなくても、「ああ仕方がないな」とすぐに諦めてしまいます。

――それはちゃんと相手に言って請求したほうがいいのでは(笑)。

 損したとか得したとか、そういうことにもまったく興味がないのです。もう幼いころからですね。家に遊びにきた友だちが、私の部屋にあるものを気に入って「これいいね、ほしいな」と言うと、すぐに「いいよ、あげるよ」というような子どもでした。

――それは性格ですか。

 性格なのかもしれませんが、それよりもやはり父の影響が強いのだと思います。

 父は訪ねてきた人が帰ると、「あれはダメな野郎だ、儲けることばかり考えている」というようなことをよく言っていました。損得に一喜一憂するのは下衆な人間だと軽蔑していたのです。

 だから、家で私が「損しちゃった、得しちゃった」などと口にすると、そんなこと言うものじゃないとものすごく叱られました。

 佐藤家だけではなく、学校でも先生が欲張りはよくないと教えていましたから、そういう時代だったのでしょう。

――現代人は損得を気にしすぎですか。

 そう思います。生きていれば損をするのは当たり前のこと。それなのに損をしないようにとがんばれば、生きにくくなるだけです。

――あまり損得に無頓着だと簡単に騙されそうですが。

 騙されたっていいじゃないですか。人生なんてそんなに大したものじゃないでしょ。

――でも、騙されれば後悔したり、騙した相手を恨みたくなったり、心中穏やかではいられませんよね。

 私は別れた夫がつくった借金の返済のために、かなりの時間と労力を費やしましたけど、後悔なんてしていないし、相手のこともいっさい恨んでいません。間の抜けたことをしたなとは思いますけど、その程度です。

 人を信じてお金を貸したら、そりゃ返ってこないこともありますよ。そういうときはそういうものだと思って、忘れてしまえばいいのです。