シニア社員の活躍に
必要なITの活用

 そして「当然ながら、シニア社員も若手社員から好影響を受けている」と山地氏。

「やはり、人間誰しも長く生きていると考えが凝り固まってしまいます。当社のシニア社員も職人気質で頑固なところがありますが、若い人の発想や感覚に触れて柔軟になっている印象があります。特にデジタルツールを活用した若手社員の働き方や、デジタルマーケティング手法などは上の世代には新鮮に映るでしょうね」

 シニア世代は技術と経験を伝え、若手世代は新しいアイディアを提案し、ミドル世代は双方をつなぐ。サウンドファンのスタッフは、世代ごとに求められた役割を全うしながら仕事に取り組んでいるのだ。

 そして山地氏は「シニア世代が活躍できる会社づくりに、ITの活用は必須」と語る。同社では全社員がリモートワークを実施し、会議や業務のほとんどをオンラインで行っているという。

「在宅勤務を導入したきっかけはコロナ禍です。当時はシニア社員の感染リスクを避けるため、かなり早い段階でリモートワークに切り替えました。やむを得ず導入した働き方でしたが、その結果、全社員の生産性が上がり、業績もアップしたんです。元々、志が高いメンバーが集まっているので、リモートでも真面目に働いてくれる人ばかりなんですよ」

 また、リモートワークの実施で通勤の時間が不要になり、シニア社員は身体的な負担からも解放され、かえって働きやすい職場になったという。なかには、伊豆在住のシニア社員もいるそうだ。

「当社にとって、シニア世代の価値は“経験”にあります。現役時代のようにフルタイムで働くのではなく、彼らの可能な範囲で経験を生かせる環境を整えるのが、今後シニアと働く企業に求められる要素かもしれませんね」

 自由な働き方の実現が、シニア活躍の鍵を握る。若手からシニアまで、幅広い世代が力を合わせてものづくりに挑む同社は、先日、新製品「ミライスピーカー・ステレオ」の販売を開始した。

ミライスピーカー・ステレオ「ミライスピーカー・ステレオの開発には、3年の月日を費やしました。ミライスピーカーシリーズは、聞こえにお困りの方が聞き取れるか否かが重要なので、開発中も聞こえにお困りの方を実際にお呼びして音の“聞こえ”を検証するため、発売に時間がかかってしまうんです」(山地氏)

「『ミライスピーカー・ホーム』は言葉の聞き取りに特化したスピーカーでしたが『ミライスピーカー・ステレオ』は言葉だけでなく、高いデザイン性と映画やドラマなどの背景音や効果音などもステレオにより臨場感をもってお届けできるのが特長です。ステレオはグローバル展開も行っており、すでにアメリカで販売を開始しています。アメリカでの市場調査では、実際に音の聞こえに困っている方に使用してもらい、日本の住宅よりも面積が広いアメリカのリビングルームでも、曲面サウンドの効果が認識できました。今後は中国やヨーロッパでの販売も検討しています」

 世界保健機関(WHO)は2021年に発表した「世界聴覚報告書」のなかで、2050年までに世界で4人に1人に当たる約25億人が、難聴を抱えて生活すると予測している。シニア世代がいきいきと働くサウンドファンの技術が、世界中の聞こえに悩む人々の生活をサポートする未来がすぐそこまで来ている。

<識者プロフィール>
山地浩氏
サウンドファン代表取締役社長/CEO。株式会社レントラックジャパン取締役、株式会社TSUTAYA・ディスカス代表取締役社長、株式会社ツタヤオンライン代表取締役社長を歴任。自らを「立ち上げ屋」と語り、オンライン宅配レンタルサービス「ツタヤ・ディスカス」を生み出すなど、さまざまな新規事業の立ち上げに携わる。2018年10月より現職。