2023年9月に総務省統計局が発表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、全国の総就業者に占める65歳以上の割合は、過去最高の13.6%を記録。いまや、日本で働く7人に1人が高齢者となっている。日本経済の一端を担うシニア世代が、前向きに働ける職場には何が必要なのか。シニアベンチャーのサウンドファンの事例から、シニア人材活躍のヒントを探る。(清談社 真島加代)

蓄音機から着想を得た
「ミライスピーカー」

 政府は2021年に「高齢者雇用安定法」の一部を改正し、70歳までの定年引き上げや定年制の廃止など、シニアが長く働ける環境整備を事業者の努力目標として掲げている。実際に働き手不足を解消するため、シニアの採用を検討している企業もあるだろう。

 東京・浅草橋に本社を構えるサウンドファンは、20代から70代の幅広い年齢層のスタッフが在籍するベンチャー企業であり、採用の際も年齢より個人のスキルを重視しているという。

「当社では、主に自社製品の『ミライスピーカー』シリーズの製造・販売を行っています。ミライスピーカーはテレビの聞こえ、特に言葉がはっきりと聞き取りやすくなる特許技術『曲面サウンド』を採用したスピーカーです」

 そう話すのは、サウンドファン代表取締役社長・CEOの山地浩氏。通常のスピーカーは振動板が“円すい形”になっているが、ミライスピーカーの振動板は平板が湾曲した形になっており、より音が広範囲に届き、聞き取りやすい構造になっているという。

「創業者が音楽療法を研究している大学教授から『蓄音機の音は耳の遠い高齢者にもよく聞こえる』という話を聞き、蓄音機のカーブをヒントにしたスピーカーを試作したのがミライスピーカーの始まり。そのスピーカーの音を、高齢で耳の遠い自身の父親に聞かせたところ『言葉がよく聞こえる』という感想をもらい、商品化に乗り出したそうです」

テレビ用スピーカー「ミライスピーカー・ホーム」テレビ用スピーカー「ミライスピーカー・ホーム」。高齢者本人だけでなく、聞こえに悩む親に子どもがプレゼントする、ギフト需要も高いという

 2013年の創業時、創業者の年齢は50代後半。セカンドキャリアとしてサウンドファンを立ち上げ、スピーカーの開発に取り組んだ。

「創業者はスピーカーの技術者ではなかったのですが、その後、大手音響機器メーカーのKENWOOD(現・JVCケンウッド)で経験を積んだベテランエンジニアたちが参画。当時から60代後半のメンバーが参画していたので“シニアベンチャー”として話題になりました」

 創業から2年の月日を経て、2015年に「ミライスピーカー・ボクシー」を発表。ボクシーは、現行モデルより大きいサイズのスピーカーで価格が高かったこともあり、当初は法人向けに販売を行っていたという。