狂騒!半導体#8Photo by Reiji Murai

半導体大手ルネサスエレクトロニクスが海外企業の買収を加速させている。総額1兆7000億円でアナログ半導体メーカーを買収した後、約9000億円で買収するのは米ソフトウエア会社だ。狙いは従来型のビジネスモデルからの脱却にある。特集『狂騒!半導体』(全17回)の#8では、政府の半導体戦略から一線を画して快進撃を続ける“ルネサスの新戦略”に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

政府の半導体戦略と一線を画す
ルネサス独自の海外買収の軌跡

 政府主導で半導体工場の建設や増産投資が相次いでいる。

 2月6日、半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に2番目の工場を建設すると発表した。建設中の第1工場を含めると投資総額は200億ドル(約2兆9600億円)で、日本政府は最大7600億円規模を補助する見込みだ。

 同日、半導体大手のキオクシアホールディングスが米ウエスタンデジタルと競合運営するNAND型フラッシュメモリー工場で総額7290億円の巨額投資を実施することが明らかになった。政府は最大1294億円を補助する。

 昨年には、総額5兆円の投資規模とされる最先端半導体会社ラピダスが北海道千歳市に工場の建設を始めた。政府はすでにラピダスに3300億円の補助金を決定している。同年末には、ロームと東芝が共同で総額3883億円の投資を行い、電気自動車(EV)などの電力制御に使われるパワー半導体の増産投資を行うと発表。政府は最大1294億円を補助する。

 こうした巨額投資が次々に表面化する中、ルネサスエレクトロニクスは2月15日、約9000億円で米ソフトウエア会社、アルティウムを買収すると発表した。

 もっともルネサスの投資は、国の補助金を活用して半導体工場の設備を増強する他の半導体メーカーの巨額投資案件とは一線を画している。

 もともとルネサスは、TSMC熊本工場の運営会社JASMへの出資を政府から呼び掛けながら辞退しており、ラピダスに対しても出資を見送っている。

 政府主導の半導体戦略と距離を置くルネサスは、独自の判断で海外の半導体メーカーの大型買収を繰り返してきた。

 17~21年に仕掛けた3社の買収の投資総額は約1兆7000億円。だが、今回の9000億円規模の買収の対象は半導体メーカーではなく、ルネサスが仕掛けてきた巨大M&A(合併・買収)の中でも異色となる。

 その最大の狙いは、従来型の半導体メーカーのビジネスモデルからの脱却にある。次ページでは、快進撃を続けるルネサスの巨額買収の真の狙いを明らかにする。