花粉症による労働力低下
経済損失額は1日当たり約2215億円

 パルカット飛散の実用化に向けて資金を集めるなら、民間企業から出資を募るとか、クラウドファンディングをしてみるのも手ではないだろうか?

「私は花粉症対策については、国の予算でやるべきだと思う。なぜなら、元はと言えば国策でスギを植林したからです。加えて、どの地域から出た花粉がどこまで飛んで被害をもたらしているかの解明があまり進んでおらず、各自治体で解決できる問題ではありません」

 国を相手取ったスギ花粉症裁判が提訴されたのが1993年3月。林野庁はこの裁判が始まる少し前にやっと重い腰を上げて、花粉発生源対策に乗り出したそうだ(『花粉症と人類』から)。それからさらに30年たっていることを考えると、国の動きは遅いと言わざるを得ない。

「花粉症による労働力低下の経済損失額は、1日当たり約2215億円という調査発表もあります(パナソニック、20年2月5日)。国は責任をもって取り組むべきであり、花粉症対策に関する議員連盟もできて補正予算もついたのだから、より迅速に対応してほしいですね」

 最後に、この研究のゴールについて尋ねた。

「パルカット散布の良い点は、翌年に散布しなければスギ林は原状回復できることです。もし、不具合が起こってもリセットできるというのは大きな利点です。私は、最終的に全国のスギの雄花の5割程度が枯れる状態に持っていければと思っています。枯れるスギ、生まれるスギというスギ林の新陳代謝も考慮すべきだと考えるからです」

「パルカットで雄花を枯らすと、スギの成長が促進されることが分かっています。本来なら花粉の生成のために使われていた養分が、他の器官の成長に回るからです。木材としての価値が高まるので、スギ林の多くを占める民有林所有者との合意形成というハードルも低くなるはずです」

「この技術が目指すのは、スギ花粉の飛散を100%防止することではありません。山で雄花が5割枯れるだけでも、距離が離れた人里への飛散量はかなり減ります。風が全方向に均等に吹くと仮定すると、距離の2乗に反比例して少なくなるでしょう。これなら、花粉症がずいぶん軽くなったと皆が実感できると思います」

 山の自然を守りつつ人々を花粉症から救う――、小塩教授の社会実装への挑戦は続く。