現場で働く従業員が自ら考えて
作業のやり方を変える

 トヨタ自動車の工場時代で最もインパクトが大きかったカイゼン活動は、「廃油の再利用」についての提案でした。

 機械を動かすのに潤滑油を使いますが、機械から漏れ出ているものは廃油として廃棄していました。それを濾過して再利用するカイゼンの仕組みを提案したところ、かなりの報酬をいただけました。

 その評価が上層部まで報告され、工場全体に横展開されることになりました。そうした実効性のある提案をできたことは強く印象に残っています。

 その発想は、いまの時代にいわれる再生可能エネルギーなどという大それたものではありませんでした。

 潤滑油が漏れて早くなくなると注ぎ足さなければなりません。その作業が面倒だったので、「ポロポロこぼれている油を拾ってまた使えばいいのでは」と考えたわけです。

 ただ、これを単なるアイデアとして上司などに提案してもなかなか実行にはつながりません。

 ですから、勝手に自分でやってみて、形にして見せたわけです。まず、そのへんに余っている回収ポンプみたいなものを勝手に持ってきて、ポンプとポンプを機械の出口と入口につなげて、漏れた油がまた機械に戻ることを確認します。

 そういった回収システムみたいなものを作れば再利用できることがわかった段階になって初めて、上司や他の部署に相談に行きました。

 現場で働いている一介の作業員ですから、会社の予算を持っているわけでもないし決定権もありません。ある程度形にしなければ説得力がないし、周りも動いてくれません。

 トヨタ式カイゼンは、従業員が経営側からの指示で行う活動ではなく、現場で働く従業員が意見やアイデアを出し合いながら、現場がより良くなるように自ら作業のやり方を変えていくボトムアップ型の活動です。

個人でもグループでも
「カイゼン」を追求する社風

 カイゼンの面白さに魅せられた私は、QCサークル(=クオリティ・コントロール・サークル。トヨタ自動車の職場単位でチームを組み、職場の改善に取り組む活動)などのグループでのカイゼン活動にも意欲的に取り組むようになりました。