日本人の考え方は日本の教育に根づいている。デンマークのビジネスデザインスクール「The KaosPilots」に日本人初の留学生として留学中の大本綾さんが現地で直面した「自己表現」の違い。それは両国の教育の違いを浮き彫りにした。大好評の「留学ルポ」連載第3回は、教育の違いを通して北欧のクリエイティビティ、幸せ創造の原点を探る。

北欧の人が自分について語るとき

「自分を表現するものを1つだけ持ってきて下さい」

 それはThe KaosPilotsに入学して初めて与えられた課題でした。4日間の新入生合宿に参加したときのことです。

 1日目の夜に、36人のチームメイトと2人のチームリーダーが集まりました。部屋の中心には大きなブランケットがあります。自分の持ってきたものは周りに見られないようにそっとブランケットの下に置きます。それらを順番に誰かが選び、持ってきた人の名前を当てて、当たったらその人がなぜそれが自分を表すのかを話します。

 私が選んだのは、折り鶴でした。理由はそれが母国を象徴していること、また一枚の紙で作り上げる鶴はアートとサイエンスの融合であり、そのコンセプトにより広告業界で働いてきた理由を伝えられると思ったからです。

 次の日、チームリーダーのウィリアムに思いもよらないことを聞かれました。「広告代理店での仕事が恋しい?」情熱と直感を頼りにデンマークに来たので、恋しいはずがありません。なぜそんなことを聞かれたのか不思議に思いました。しかしその質問がきっかけに、自分と北欧のチームメイトたちとの大きな違いに気づいたのです。

 私の話は折り鶴を例にとって日本の歴史を話しながら、過去に経験した仕事内容や自分の興味を複雑に説明したものでした。一方でデンマーク、スウェーデン人のチームメイトたちの話はもっとシンプルです。彼らがもってきたものは、大好きなアップルのパソコンのリモコン、父親の形見、仏像など、自分の好きなもの、大切なもの、信じているものについて話をしていたのです。

 私は「折り紙」が好きでしょうがないから選んだのではありません。ただ自分を説明するために、出身地や職歴を話すのが当然だと思っていたのです。そのために自ら進んで「日本人」という型の中に入って話をしていたことに気づきました。履歴書に書く出身地、職歴、年齢、資格を取ったところにあるアイデンティティーの語り方がわからなかったのです。