クリエイティビティを支える原点と社会の関係

「クリエイティブな大人は生き残った子どもである」。これはアメリカの女性小説家でSF作家、ファンタジー作家でもあるアーシュラ・クローバー・ル=グウィンの言葉です。

 時間を忘れて夢中になれる原点を見つけたら、どれだけ長い間それを維持できるかがクリエイティビティを保つ上で重要でしょう。ただし日本の学歴社会では、これを維持するのは難しいのではないでしょうか。

 高校生のときに、ミュージカルの舞台に立つという将来の夢がありました。カナダの高校に留学したときに、その面白さに目覚めたのです。しかし、帰国してしばらくしてから大学受験の時期になり、その夢を諦めてしまいました。良い仕事に就いて暮らしていくために、ミュージカルで生活していける自信がなかったのです。

 諦めなければ舞台に立てたかもしれないという甘い考えと後悔はありません。私が今、後悔しているのは、あのとき情熱を信じなかったことです。一つの方向からだけではなく、様々な角度から挑戦もせずに簡単に諦めてしまったことが今でも忘れられません。

 なぜ原点を大切にできなかったのか、どんな環境があれば忘れずにいられたのか。クリエイティビティを育てる教育とはどのようなものなのか。デンマークに来てからその答えを探し始めました。すると、ある調査結果が目に留まったのです。

 シンクタンクのMPI(Martin Prosperity Institute)によるグローバルクリエイティブインデックスです。82カ国を対象に、3つのT、つまりテクノロジー(R&Dへの投資と労働力、特許を取ったイノベーション)、タレント(進取の気性に富んでスキルのある人材の教育と確保)、トレランス(人材とテクノロジーによる経済的成長と繁栄)の観点から調査結果をまとめています。

 2010年の結果を見ると、1位がスウェーデン、2位アメリカ、3位フィンランド、4位デンマークと、北欧諸国が圧倒的にクリエイティビティに関して強いのです(日本は30位)。その秘密はどこにあるのでしょうか。