エレファント・イン・ザ・ルーム
財政危機は放置されている

――未来に向けた提言となる本書第6章「日本経済のゆくえ」では、最初に、財政赤字の現状と将来予想を示しています。現状は「国の歳出が歳入を構造的に上回っている。景気が良くなっても財政赤字は無くならない」。将来予想は「2014年の財政制度等審議会で財務省が提出した資料(図表1参照)をもとに、経済成長率2%程度で金利が成長率を上回る経済の正常化が果たされたとしても、国の債務はGDP比で2020年240%(2.4倍)が、2050年には500%(5倍)を優に超える(図の青色の線)」ことが示されています。

 債務問題の解決は、長期的に、歳出と歳入をバランスさせていくしかありません。図では、「毎年の財政収支を改善して2060年度に債務比率を100%まで下げるケース(図の赤色の線)」を財政再建案として示していますが、これを実現するには毎年の歳出(国家予算)を70%削減するか、歳入の大幅な増加、例えば消費税率で計算すると追加約30%の引き上げが必要になります。実行となると、とてもハードルの高い解決策です。

 財政再建のための方法は、歳出削減、歳入増、あるいはインフレによる事実上の債務削減(その分の国民負担増)があり、財政再建に向けたいくつかの研究を本書では紹介しました。たたし、いずれにしても、今すぐには政治的に実現不可能なので、まずは国全体で財政再建を実現しようというコンセンサスを早急に作らなければいけません。

 財政あるいは社会保障制度の持続性については、多くの人が不安を感じています。しかし、現状においては、何もやっていない。いわゆる「エレファント・イン・ザ・ルーム」という状況です(注:エレファント・イン・ザ・ルームとは、部屋の中に大きな象がいるのにみんな黙っているという状態。重要な問題の存在を誰もが認識しているけれど、誰も直視や言及しないことの譬え)。

 実は、1990年代の不良債権と、今日の膨大な政府債務への国民の向き合い方は同じです。ある程度の期間は、問題の先送りができるので、今、課題に向き合うべき現在世代は先送りしようとするのです。