管理会計を、ドラッカー経営の本質論から考える

『財務3表一体理解法』(朝日新書)シリーズは、累計90万部超のベストセラー。最新作は『財務3表一体理解法「管理会計」編』で、管理会計がフォーカスされている。原価計算や損益分岐分析など仕事に即役立つポイントから、「マネジメントの父」と言われるピーター・ドラッカーと管理会計の関係まで幅広く、著者の國貞克則氏に聞いた。前編に続いて、後編をお送りする。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪亮、撮影/嶺竜一)

販管費を事業ごとに
配賦する管理会計

――前編の最後にお話しいただきました費用の配賦という考え方は、面白く、合点がいきます。本書では、複数の事業を抱える企業で、この考え方によって、事業の採算性を見極める事例が出ています。

 私の顧問先を2つ挙げて解説しています。ここでは簡略化してお話しします。まず1社目は設備工事、電気工事、情報システム、清掃の4つの事業を展開している会社です。

 当初この会社は、前編でお話しした損益計算書(PL)における「販売費及び一般管理費(販管費)」を、4つの事業に売上高比率で配賦して、各事業の営業利益を計算していました。この場合、清掃事業は売上高が比較的高く、売上高総利益(粗利)ベースでは黒字なのですが、販管費を配賦した後の営業利益ベースでは赤字になり、今後の展開が同社の経営課題になっていました。

 販管費を子細に見ると、自社所有の本社ビルと設備倉庫の減価償却費が相当な額でした。しかし、清掃事業は、他の3つの事業とは異なり、事業従事者は正社員が少なくパート・アルバイトの人たちが中心で、顧客先の清掃現場に直行直帰の仕事をしていて、本社ビルや設備倉庫をほとんど使用していませんでした。

 そこで、これらの減価償却費を、事業の「売上高比」で配賦するのは合理的ではないと考え、「使用面積比」の配賦に変更しました。併せて、本社の人件費や水道光熱費の配賦も正社員人数比を考慮したところ、清掃事業の営業利益は黒字となり、採算性が見直され、以降、成長事業として注力されることになったのです。

管理会計を、ドラッカー経営の本質論から考える

――もう1社は、営業担当者の業務時間の配賦についてですね。

 その会社は、1つの製品を、2つの流通形態で販売しています。一つ目の流通形態は、大手量販店のような大組織への販売です。この場合、販売価格の交渉や製品情報の提供などは、本部同士で行われます。そして、交渉が妥結した後は、全国に展開する店舗への販売価格などの情報は、量販店の本部から流されます。一方、もう一つの流通形態は、地方に点在する地場の小売会社からの流通です。この場合、営業担当者はそれぞれの地方の小売会社に出張に行き、個別に販売交渉や製品の情報提供を行う必要があります。

 同じ製品を販売しているので、当初は、2つの流通形態のどちらに対しても、同一価格で製品を販売していました。しかし、営業担当者の販売費及び一般管理費の対売上高比率は、地方の小売会社のほうが格段に大きくなります。販売効率がとても悪いのです。

 そこで、この販管費をカバーできるように、地方の小売会社への販売価格を値上げしました。その際は当然、顧客先に売上高販管費比率の違いを明示し、値上げを納得してもらいました。これは一例ですが、管理会計の考え方を会社全体に浸透させることで、個々の社員の利益に対する意識は確実に高まっていきます。

――こうした人員の業務時間の費用配分という面が、「マネジメントの父」と言われるピーター・ドラッカーが、管理会計に影響を与えていると本書で書かれた一つの事例ですね。

 はい。ドラッカー先生は、著書『創造する経営者』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)で、こう提唱しています。

「今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない。(中略)特定の製品のコストを知るには、コストのうち膨大な部分が(編注:単純な売上高のような)比例配分によって決定されるような数字は役に立たない。(中略)明確な焦点のない事業のコストは、作業量による配分が最も現実に近い唯一の計算となる」

 本書のコラムに書きましたが、これは後に、ABC会計(Activity Based Costing:日本語訳は「活動基準原価計算」)として発展していきます。間接費を各事業活動に応じて集計し、各製品に配分していく会計手法です。

 ABC会計の導入と運営には膨大な労力がかかるという課題があり、今日、期待されていたほどには導入は広がっていませんが、ドラッカー先生の考え方は前述したような形で、管理会計において企業や事業者がそれぞれ工夫して活用しているのです。