変局!岐路に立つNHK#3Photo:JIJI

NHKは4月以降、新たな人事制度を導入する方向だ。その柱は、前会長の前田晃伸氏の肝いり施策の廃止である。“縦割り”打破を目指した前田氏の目玉制度はなぜ葬られるのか。特集『変局! 岐路に立つNHK』(全8回)の#2では、新人事制度の具体的な中身と共に、人事制度を巡る混迷を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

稲葉会長が「改革の検証」を表明
前田・前会長の改革を見直しへ

「(神経系統が)目詰まりを起こしています。この神経系統の目詰まりは縦割りの弊害打破などというスローガンだけでは片付けられない深刻な問題を惹起しており、真剣な見直しが必要です」。日本銀行理事出身で日本放送協会(NHK)の会長に就任した稲葉延雄氏は、2023年4月、職員向けの新体制発足の挨拶の中で、組織が抱える深刻な課題についてそう評した。

「改革の検証と発展」。稲葉体制はそんなスローガンを掲げる。実は、この「改革」とは、みずほフィナンシャルグループの元会長でNHK前会長・前田晃伸氏の号令の下で進められた人事制度の改革を指している。

 前田氏は21年にNHKの人事制度を大きく見直した。その目的は、強過ぎる「縦割り」や厳格な「年功序列」の打破とされた。「公共放送のプロ人材」の育成が、前田改革の大命題だった。

 前田改革では、職員は二つのジョブグループに分けられた。プロデューサー業務や番組制作、アナウンスなどを担当する「クリエーター」と、営業や事務などを行う「コーポレート」だ。これにより、採用時の職種とは違う職種への異動も可能となった。

 同時に新卒採用でも改革を断行。職種別採用は総合職採用に一本化され、新入社員が入局から2年間、さまざまな職種を経験する「ジョブトライアル」の期間も設けられた。

 さらに、「管理職比率の引き下げ」や「若手社員の登用」も目標に掲げられた。ダイヤモンド編集部が入手した21年1月の人事制度に関する内部資料によると、管理職の比率は37%から25%に引き下げるとの数値目標がある。”若返り”を狙ったものともいえる。

 だが、23年4月に発足した稲葉体制では、“改革の検証”を進めている。実は、これは、前田改革の”否定”ともいうべき動きである。そこには、前田氏が打ち出した”目玉施策”の廃止なども盛り込まれている。

 次ページでは、ダイヤモンド編集部が入手した最新の内部資料を基に、新たな人事制度の中身に加え、管理職を対象とする制度変更の懸念を詳報する。前田改革はなぜ頓挫したのかも明らかにする。