中国語通訳者、警備員、清掃員が同乗

 車両に乗り込んでみると、車内は先進的だなという感じがした。座席番号が印刷ではなく、液晶なのかキラキラと光っていたのだ。天井から小さな液晶画面がいくつもぶら下がっていた。ただ、座ってみると気のせいか新幹線と比べて狭い気もした。

車内の様子車内の様子。座席番号が液晶表示されている Photo by T.M.

 アナウンスが面白い。毎回最後に、「Whoosh, Whoosh, Yes!」(ウーッシュ、ウーッシュ、イエス)というのだ。最初にこのアナウンスが流れた時には客席から笑いが漏れた。Whooshは乗り物のスピードを表す擬音語で、この高速鉄道の正式名称ともなっている。YouTuberの挨拶のようで、妙に耳につく。これはバズるのではと思った。

 車内をうろうろしていると、うわさに聞いていた常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ。アユさんは、車内には警備員が4人、清掃員が4人乗っていると教えてくれた。

 先進的な高速鉄道と対照的に、窓の外に目をやると、ヤシの木や棚田といった牧歌的な光景が広がる。そうこうしているうちに、車内電光掲示板に「現在時速349km」の表示があった。これなどは、十数年前に上海のリニアモーターカーに乗った時に見た表示とそっくりだなと思った。

 客席に中国人技術者がいたので話しかけてみた。すでにインドネシアには数カ月滞在しており、現地人へのトレーニングが終わらないと中国に帰国できないんだと嘆いていた。この高速鉄道は中国でも「最高規格」だと胸を張っていた。駅の形状を含めた細かい点はインドネシアの美的センスに合わせたのだという。そうして座席に描かれた雲のような模様を指さした。これはインドネシアでメガムンドゥン(Mega Mendung)といい、西ジャワ・チレボンで有名なバティック(インドネシアの民族衣装)のモチーフだ。

「これから中国は東南アジアで高速鉄道をどんどん敷いていくんでしょうか?」と尋ねてみると、まずは、「中国では高速鉄道が4万km敷かれていて、海外の路線全てを足したよりも長い」と中国の優位性についての指摘があった。ただ、「各国の需要にもよる」とあくまで控えめだった。中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう。