もっとも、春闘で実質賃金が上昇に転じた場合にも昨年の下落分2.5%を取り戻す程度と想定され、消費が持ち直さない可能性がある。異次元緩和前の2013年1月から今年1月までに、10.2%の実質賃金の低下を経験している中、3月の世論調査では春闘で実質賃金は上がらないとの回答が大勢を占めた。この見方を変えるには、足元の春闘の賃上げ率では力不足だと思われるからだ。

 今回の賃上げが想定以上となったのは、若手やIT人材など、人材不足の深刻化の影響が大きい。内外で労働の流動化が進む中、必要な人材を確保し、維持するためには大幅な賃上げが必然であった。なお、国内消費は弱含みでもインバウンド需要などに支えられて、大幅な賃上げが想定以上のサービス価格・消費者物価の上昇をもたらす可能性も否定できない。

 これまでのような、早過ぎる利上げは遅過ぎる利上げよりもコストが大きいという考え方は変えなければならない。「普通」の金融政策運営に当たっては、上振れ・下振れリスクに対して中立的な評価を行い、経済物価見通しとその蓋然性の程度に応じて政策運営が行われることを期待したい。

(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)