最重要は「国内外の物価情勢」

 今後も、日銀は経済情勢を注視しながら、金融政策の正常化を目指すだろう。それに伴い、国内の金利は上昇し、家計や企業の利払い負担が増加する可能性が高まる。今すぐではないが、金利上昇懸念の高まりから国内の株価が調整したり、円が対米ドルで買い戻されたりする恐れもある。

 最も重要なファクターは、国内外の物価情勢だ。短期間で世界的に物価が下落し、国内の物価が2%近傍で安定すれば、日銀は来年の春闘などでの賃金上昇、それによる個人消費の回復などを確認しつつ金融政策の調整を進めることができる。

 ただ、現在の世界経済の環境から、早期の物価安定の実現は難しいだろう。世界的に人手不足は深刻だ。特に、米国の賃金は依然として上昇傾向にある。企業は、価格転嫁を進めやすく、米FRBが2%の物価安定を実現するには時間がかかるだろう。米金利は高止まり、あるいは上昇し、ドル高・円安が加速することも考えられる。

 わが国が輸入に頼るエネルギー資源、食料などの供給も世界的に不安定だ。石油に関しては6月末までOPECプラス(主要産油国が石油の生産量を調整することで価格の安定を図る枠組み)の一部加盟国が自主減産を続ける。加えて、紅海でのフーシ派による船舶攻撃の増加によって喜望峰経由のタンカーが増えたことなどの影響で、物流コストも上昇している。

 仮に、中東情勢が一段と緊迫し、イランがペルシャ湾封鎖を示唆すると、事態はさらに深刻だ。カタールからわが国や欧州諸国が調達する天然ガスは減少することになる。こうした背景から今後も、円安とエネルギー資源などの価格上昇で、国内の物価上昇圧力は高まりやすい。

 今後、日銀は家計や中小企業などへの影響を注視しつつ、金融政策正常化に取り組むことになるだろう。「早ければ7月にも追加利上げ実施」の観測はあるものの、個人消費が伸び悩む中、実行のハードルは高いだろう。個人消費を中心に日本経済の先行きは楽観できず、金融政策の修正、正常化を目指す日銀の道のりは長くなるはずだ。