好評の「媚びない人生」対談シリーズ。今回は、昨年行われた小倉広氏、木暮太一氏との3人でのスペシャルトーク「「働き方」を考えることは、幸せのかたちを考えることだ」の模様をお届けします。『僕はこうして、苦しい働き方から抜け出した。』(小倉氏)、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか』(木暮氏)というベストセラー作家3人が送ったメッセージとは。(構成/上阪徹 撮影/石郷友仁)

働く意味を感じる装置としての会社

木暮 今日は大きく三つの柱でお話をさせていただきたいなと思います。一つ目は社会変化。これから社会と経済がどうなっていくのか、どうなっていきそうなのか。二つ目は、この社会の中でどういうふうに働いていくべきなのか。そして三つ目が、人間の幸せって何だろうかと。まず経営者の小倉さん、これからどんな社会になっていくと思いますか。

小倉 これはひとつの見方ですが、最近、人材募集で応募してくる人に傾向があるんです。どんな仕事がしたいか、どんな会社で働きたいかというと、社会貢献をしたいとおっしゃる学生さんが多い。

 社会で役に立っている会社で、できれば新入社員の段階からダイレクトに社会とつながりたがっている印象を私は強く受けています。これは働く人だけじゃなくて、企業そのものが、世の中にどんなふうに役に立っていくのか、どんなふうにつながっていくのか、意味のようなものを強く求められるようになっている気がするんです。
 これは働き方にもつながるんですが、みんな、すごく意味を感じたい。役に立っていると実感したい。その装置として会社の存在がすごくクローズアップされているような気がします。

木暮 ここにいらしている来場者の方々が実感されているかどうかはちょっとわからないんですが、今までの社会の流れとか、会社のあり方が最近、変わってきたなというふうに僕も考えています。
 終身雇用が崩壊したり、年功序列がなくなっていく中で、会社はこれからどうなっていくのか、どういう社会になっていきそうなのか、どういう価値観がよしとされる世の中になっていくのかということに関して、キムさん、いかがですか。

自分が自分を<br />しんどくさせている<br />【小倉広×木暮太一×ジョン・キム】(前編)
ジョン・キム(John Kim)
作家。元慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。韓国生まれ。日本に国費留学。米インディアナ大学博士課程単位取得退学。中央大学博士号取得 (総合政策博士)。ドイツ連邦防衛大学博士研究員、英オックスフォード大学客員上席研究員、米ハーバード大学インターネット社会研究所客員研究員、慶應義 塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構特任助教授等を歴任。アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5カ国を渡り歩いた経験から生まれた独自の 哲学と生き方論が支持を集める。著書に『媚びない人生』(ダイヤモンド社)、『真夜中の幸福論』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、訳書『ぶれない生 き方』(スティーブ・ピーターズ著 三笠書房)がある。

キム 僕は経済学者ではないので経済を専門的に分析することはできないんですが、自分の学生を見ても自分自身を見ても、日本社会というのはかなり成熟した資本主義に入ってきているんじゃないかと思うんですね。

 多くの方々がいわゆる資本主義に毒されて今まで生きてきたんじゃないかと、やっと気づいた気がします。それは企業側の体制が変わったから変わったのか、消費者のニーズが変わったから、それに合わせるように企業側の体質が変わってきたのかはわからないんですが、いわゆる物質的な豊さを越えた、成熟した形になってきている。

 金銭的な対価だけでなく、例えば仕事をする中で働きがい、またコミュニティに対する貢献、自分の利害を越えた形での愛情の連鎖の中に自分の身を置くことによって、自分の働きがい、生きがいというものを探す若者が多くなっている。

 多くの大人は若者を見たときに、若者は欲求がない、このままだと日本は経済大国第3位から4位、5位に落ちていってしまうと言いますが、若者にとっての幸福の基準と高度成長期の大人の基準はちょっと違うんです。その部分について十分理解しようとせず、自分たちが若いころから持っていた幸福の基準というのを大人が押し付けようとするのは、間違いですね。

 大人の基準から判断すると若者はあまり欲がないように見えたり、草食系に見えたりするかもしれないんですが、若者が持っている欲求や幸福は性質がまったく違うところがある。若者は資本主義の成熟度に合わせて、生き方、働き方を適応させようとしているんじゃないかと見ています。