ターゲットは日常に疲れているあなた?
カレー屋に癒しを求めて

「もうひとつのポイントは“女性”です。うまくいってる店ってたいてい、女性のお客さんが多いんです」

 クマルさんは持論を語る。というよりも、「インネパ」の中にはアジアの裏町的なあやしいたたずまいで、女性がやや入りづらい雰囲気の店もあるのだ。それでは世の半数を占める女性を顧客としてはじめから失っていることになる。

「だからおしゃれな外観・内装にする、野菜をたくさん使ったヘルシーなメニューを用意するなど、なにかアピールできるものが欲しいですね」

 それと子供づれの母親やファミリーをいかに取り込むか。

「子供に『あのカレー屋さんに行きたい』と言わせる店であることです。キッズセットがあったり、子供向けのおもちゃや塗り絵なんかを用意してるカレー屋もあるんです」

 親子で安心してくつろげる店であること。それは「インネパ」が生き残っていくためのひとつの戦略かもしれない。ネパール人はたいてい子供好きだからだ。お客の子供でも全力でかわいがってくれる。多少騒いだところで気にしない。そもそも店主やコックの子供たちだって店内で遊んでいたり宿題をやってたりするのだ。そこにはおおらかにしてテキトーなアジアの空気感がある。

 日本人の店だとこうはいかない。子供が迷惑をかけないか、常に神経をとがらせ周囲に気を遣わなければならないからだ。少子化が進んで子供は大事な存在になっているのに、なぜか子供を取り巻く環境は世知辛くなっているのが日本の現状なのだが、ネパール人の店だとそんな気苦労はない。僕の知人の女性は、小学生と幼稚園の子供2人をつれてよくネパール人のカレー屋に行くという。

「子供が泣いても怒らないし、話を聞いてくれる。ほっとするんです。だからママ友たちでときどき子づれでネパール人の店に行くんです。親同士が話してるときは子供の面倒を見てくれたりするし」

 そして、できればホールで接客するのは女性がいいとクマルさんは言う。

「女性のほうがコミュニケーション能力が高いのか、日本語力が伸びるように思います。それにネパール人女性はホスピタリティ豊かです。女性の柔らかな接客のほうが日本人女性も子供も安心するでしょう」

 そこに癒やされているのは男性も同じだ。夜は居酒屋メニューをメインに打ち出している飲み屋のような「インネパ」もあるが、日本人のオッサンたちがネパール人のおばちゃんにグチを聞いてもらっている姿をよく見る。寂しさを抱えた年寄りのたまり場になっているようなカレー屋もある。なにかと疲れた日本人の居場所になっているような店は、たいてい長続きしているように思う。