小さく無力な個人でも社会を変えることは可能か。ソーシャルデザインが注目されるなか、誰もが閉塞感を感じる日本をどうすれば変えられるのか。明治維新という奇跡のソーシャル・イノベーションを、国民の精神変革によって実現させた名著『学問のすすめ』から、世界を変える「3つの武器」を読み解く。

たった一人がつくり上げた仕組みが、
全世界で1600万人を支える力に

「マイクロクレジット」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。バングラディッシュで貧困問題に取り組んだ、ムハマド・ユヌスという人物が開発した貧困層向けの新しい融資の形態です。

 1970年代に彼によって設立されたグラミン銀行が起源となった「マイクロクレジット」は、現在では世界各国で実施されており、1600万人を超える人々に融資をしていると言われています。

 ユヌスは元々アメリカの大学で経済学の教育を受けて祖国に戻った人物ですが、経済学者らしからぬ実践的研究に飛び込んで、現地の農家を訪問し貧困問題の根源を探りました。

「大学が知識の宝庫だというなら、一部でもいいから、その知識を周辺地域にも広めるべきだ。大学は、成果を社会に還元せずに学者が知識をきわめるだけの孤島であってはならない」(フランシス・ウェスリー他著『誰が世界を変えるのか』よりユヌスの言葉を引用)

 この言葉は140年前に福沢諭吉がとなえた「実学」の概念と共通する響きがあります。諭吉は実社会で使えない学問ではなく「実学」こそ学ぶべきであり、あらゆる分野で自らが得た学びを活かすことを説いています。

 2006年にグラミン銀行とユヌスはノーベル平和賞を受賞しますが、現在では広く知られているこの仕組みは、たった一人の人物が孤独の中で始めた革新から生まれていたのです。