学びを継続できない「ライセンシング効果」の罠。そこから逃れるためには、得られた成果ではなく「なぜ?」という行動の理由を問いただすことが効果的である。連載第11回は、福沢諭吉が『学問のすすめ』に込めた「学ぶ理由」を考える。
何に焦点を合わせると
「難しい時代」を乗り越えられるのか?
スタンフォード大学の心理学者であるケリー・マクゴニガル博士は、著書『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)で、ライセンシング効果というものを解説しています。
例えば、サラダと食べると高カロリーの大きなハンバーガーを食べることに、心理的な抵抗感を抱かなくなる。なぜなら「サラダを食べる」というカラダに良いことをしていることで、少しぐらい高カロリーのものを食べても“大丈夫”と感じるからです。
同じように人は「進歩した」ことを実感させると、逆にサボりがちになるとマクゴニガル博士は指摘しています。これまで自分が達成してきたことに焦点を当てると、人は努力した自分に満足してしまい、多少怠けてもいいかと誘惑に負ける心理に陥るのです。
これは、私たちがよく覚えている「ウサギとカメ」の童話にそっくりです。
もともと足の速いウサギは、レース直後からのろまなカメを圧倒的に引き離します。その「自分の成果」に想いを馳せたことで、ライセンシング効果が生じ、少しぐらい昼寝をしても大丈夫だと、怠惰な方向に流れて痛恨の負けを喫します。
マクゴニガル博士は書籍の中で、ライセンシング効果のマイナスの影響を打ち消すためには、成果を思い出すのではなく「なぜ」というその行動の理由を思い出すことが効果的だとしています。
大口の商談がある営業のため、数日間かけてさまざまな資料を準備していると、でき上がった資料の数々と苦労から、「ここまでオレは頑張った!」とライセンシング効果の罠にはまる可能性があります。
当然ですが、「なぜ」この資料を作っているかと問えば、大口商談を成功させるためです。ならば商談成立まで、絶対に油断はできないはずでしょう。
正しい要素に焦点を当てることで、油断や怠慢に流れる気持ちを引き締めることができ、より大きな成果を継続して獲得できる効果があるのです。