ケインズ主義に対抗するシカゴ学派マネタリズムの旗手として、米国のみならず世界各国の経済政策に多大な影響を与えたミルトン・フリードマン(2006年没)。時計の針を17年ほど巻き戻した1993年末のインタビューでは、同年「大きな政府」を公約し誕生したクリントン民主党政権による規制強化や増税の動きを憂い、自由市場システムの優位性を繰り返し強調した。(ダイヤモンド社「グローバル・ビジネス」1994年1月1日号掲載)

◆技術革命について
「上げ潮はすべての舟を浮き上がらせる」

―あなたが言う、冷戦終結後に起きている“第2次産業革命”とはどのようなものか。

ミルトン・フリードマン<br />「世界の機会拡大について語ろう」
「好ましい世界をつくるには、各国(人)がそれぞれ自国(自分)のことをきちんと管理すればよい。おのおのの価値観に従って、自由に自己の才覚を発揮できる仕組みをつくれば、物質的な繁栄と人間としての自由を共に謳歌できるだろう。そして自由市場こそ、この理想を最もよく実現できるシステムだ」
ミルトン・フリードマン
(Milton Friedman、1912年7月31日~2006年11月16日)
ケインズ主義に対抗するシカゴ学派マネタリズムの旗手。76年にノーベル経済学賞を受賞。市場を重視する自由主義経済の立場から多くの著書があり、日本でも『資本主義と自由』『選択の自由』がベストセラーになり、インタビューが行われた1993年には 『貨幣の悪戯』が翻訳出版された。一貫して共和党の自由主義政策を支持し、ニクソン、レーガン両氏の経済政策に影響を与えるなど、学界に閉じこもらない幅広い活動を展開した。
Photo(c)AP Images

  フリードマン:私が述べたのはここ20~30年に進行している技術革命(technological revolution)についてで、これが従来よりはるかに幅広い国際協力を可能にし始めたということだ。

 今日では、どこに立地している企業でも、どこからでも資材の調達ができ、どこででも生産し、どこへでも販売できる。このような技術革命は政治的な革命によって加速された。ソ連や東欧における共産主義体制の崩壊は、先進国の資本と協力し得る人々を大幅に増やした。中国も世界貿易に対して門戸を開きつつある。

 19世紀における最初の産業革命は、一つの国の国内に変化を引き起こした。新しいかたちの物的資本をもたらし、それが新しいかたちの人的資本を生み出した。近年の産業革命は通信やコンピュータの普及に伴う情報革命であり、通信革命である。この革命が、第2次大戦後の東アジア諸国の急成長や世界貿易の目覚ましい伸びを可能にした。例えば米国では、戦前は貿易が国民所得の5~7%程度にすぎなかったが、現在はおよそ15%に達している。このような新しい動きは、世界の総生産高の飛躍的な拡大の可能性を開くものと言っていい。

 このような拡大を実現するには、先進国は新興諸国と協力しなければならない。ところが、ここに注目すべき不合理な現象が見られる。先進諸国は、最も多くの資本と最も進んだ人的資本を保有しており、新しい機会を生かすことによって最も得るものが大きいはずだ。だが米国や日本、西欧諸国といった先進国は、自分たちの周囲にさくを張り巡らしている一方で、新興国は競うように市場を開放し、世界貿易体制に参加しようとしている。これを見ていると、最初の産業革命の時、変化を阻止しようと機械を破壊した英国の職工組合ラッダイト(Luddite)を思い出す。現代のラッダイトは、各国間のより自由な貿易を阻止しようとしている人々だ。

―第2次産業革命は、日本や米国、西欧などの先進国における雇用や所得分配にどのような影響を及ぼしているとお考えか。