ダイヤモンド社のビジネス情報サイト

稀代の教育改革者は、学びを楽しむ達人だった――サルマン・カーン カーンアカデミー創設者に聞く

瀧口範子 [ジャーナリスト]
2013年7月10日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
2
nextpage

――具体的にはどのようなシステムになっているのですか。

カーン 今でもすでに、生徒が設問を解くと、理解度がわかるしくみになっています。今年8月からさらに追加されるのは、最初に診断用の設問を解くというしくみです。10分程度の短い設問を解いてみて、その科目をどの程度理解しているのかを把握し、それに合った教材を勧めます。

 学習を進めていくにしたがって、どんな設問ができたりできなかったりしたかをデータ化していき、それに合わせて次にこれを学習するのが一番いいというものを示します。

 つまり、数学、生物学、幾何学など何を学びたいという生徒のゴールと、最初に受ける診断テストの結果によって、学習の道のりを調整してくれる「適応型学習エージェント」のようなしくみです。

 ビデオは、そのエージェントが提案する活動のひとつとして組み込まれますが、いつもその個人に何が最適かが判定されている。このシステムは生徒にとってだけでなく、教育の研究者にとっても有用で、スタンフォード大学とペンシルバニア大学の教育認知学の研究者たちと協力して、何が生徒をやる気にさせるのか、もっと学習させるのかを探ろうとしています。

――普通の学校でもカーンアカデミーの教材が利用されていますが、先生が教壇に立って教えるこれまでのやり方と、カーンアカデミーのしくみはどのように違うのでしょうか。

カーン 日本でも米国でも同じですが、学校ではみなが同じペースで進むことが前提となっています。ですから、ちゃんと理解できていない生徒がいても、ともかく次の章に進まなければなりません。

 カーンアカデミーは、そんな代償を払わなくてすむような道具となればと望んでいます。たとえば、20~30人のクラスでも、先生は各生徒がどこまで理解しているのかを把握していて、つまずいている生徒には同じところを勉強させる。一方、どんどん先へ進める生徒がいれば、そうさせる。

 授業は、講義のリズムで一斉に動くのではなくて、先生から直接指導を受けることで成り立つのです。わからない生徒の横に先生が座って、説明をする。要は、ひとりひとりに合ったペースで学習ができるということです。

――基本が理解できてからその次に進むように、システムも先生もそれを見守るということですね。

カーン そして学習するのに最も役立つのは、設問を解くことなんです。確かに私ひとりで3000本もの教材ビデオ教材を作りましたが、ビデオ自体は学習の核を成すものではありません。学習体験の核となるのは、設問を解こうともがき、先生や仲間からいろいろ教えてもらうことです。その上で「ひょっとしてビデオを観た方がわかるかもしれないな」という風に、ビデオは補足材料として使うのです。

previous page
2
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

DOL特別レポート

内外の政治や経済、産業、社会問題に及ぶ幅広いテーマを斬新な視点で分析する、取材レポートおよび識者・専門家による特別寄稿。

「DOL特別レポート」

⇒バックナンバー一覧