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稀代の教育改革者は、学びを楽しむ達人だった――サルマン・カーン カーンアカデミー創設者に聞く

瀧口範子 [ジャーナリスト]
2013年7月10日
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学びの喜びは、自分自身が
コントロールできなければいけない

――そうした方法で学習すると、今とはどんな風に違った才能が芽生えるのでしょうか。

カーン 何も、将来みんなが量子物理学や医学をマスターせよ、と言っているわけではありません。けれども、早い時期に子どもたちに人工的な足かせをはめて、ポテンシャルを押さえつけるようなことはしてはならないということです。

カーンアカデミーは、「質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供する」というミッションのもと、本書の著者サルマン・カーンが2008年に創設した非営利組織(NPO)。同組織のサイト上には数学、科学、経済、ファイナンス、歴史、美術などのレッスンビデオが4000本以上並び、ユーザーはこれらを無料で閲覧・学習することができる。サイトアクセスは月間5400万ページビュー、ユニークユーザーは月間530万人(2013年2月時点)と、いま世界で最も注目を集めるオンライン教育プラットフォームのひとつである。写真は開放的なオフィス内のようす Photo by N.T.

 私のいとこのナディアは、6年生の時に算数の単位がとれず、学習能力が低い生徒たちのクラスへ行くように言われました。けれども、私と一緒に1ヵ月間勉強した結果、単位が取れただけでなく、代数学にも手をつけ始めた。その2年後には計算法も学んでいた。数学が苦手だった彼女が、すっかり得意になったのです。みながそうして自分のポテンシャルを花咲かせることができれば、世の中にとってもいいのです。

――カーンアカデミーの究極の目的は、生徒たちが自分で理解することの喜びを発見することと言えますか。

カーン その通りです。私は、すべての人間は学ぶことが好きだと思います。それは人間であることの根本的な特質ですから。それなのに、教室では話すな、動くな、触るなと、生徒たちが自分なりの方法で学ぼうとするのを押さえつける。

 また、これは特に先進国や高学歴、高所得の家庭にありがちなことですが、子どもたちは学校が終わっても、習い事や塾で忙しい。その上に宿題がある。まともな睡眠も取れないような毎日では、クリエイティビティーを発揮する時間もありません。楽しみながら何かをやることができないのです。

 「これは本当におもしろいなあ」と、立ち止まることも許されない。そうすると、自分から学ぼうとする心が萎えてしまうのです。学びの喜びは、自分自身が主導権を握っていなければ生まれません。

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瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

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