「3次元プリンタ」という言葉を頻繁に聞くようになってきたが、この新しいテクノロジーがもたらす変化や恩恵は、本当に製造業にだけ関わるものなのだろうか?こうした技術革新の可能性を、生活や仕事だけではなく、働き方に至るまで見出そうと活動する「ファブラボ(Fablab)」の日本代表であり、8月21日に控えた世界会議の実行委員長を務める田中浩也氏に、インターネットに匹敵するというその変化の本質について、ご寄稿いただいた。
「3次元プリンタ」がもたらす変化の本質とは?
デジタル技術を用いたものづくりの「ワールドカップ」が日本に
第9回世界ファブラボ代表者会議が、8月21日から27日まで、横浜で開催される。そして誰もが聴講できる国際シンポジウムが、8月26日に開催される(申し込みはこちら)。しかしまず「ファブラボ(Fablab)」とは何かを説明しておかなければならないだろう。
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ファブラボとは、3次元プリンタやレーザーカッターなどの技術革新を背景に、生活・社会・産業・働き方まであらゆる領域に渡って革新的な可能性を生み出そうとするメンバーの集まりである。世界50ヵ国200ヵ所以上に拠点を持ち、常に国境を超えて連絡をとりあっている。今回の会議は、そうした世界中の代表者が一堂に介するものである。つまるところ、デジタル技術を使った「ものづくり」の多国籍合宿、サッカーでいうところの「ワールドカップ」のようなものだ。
読者のみなさんはおそらく「3次元プリンタ」という言葉を今年ニュースなどで聞いたことがあると思う。そしてそれが国内では「製造業を復活させる」という文言で宣伝されていることも。
しかし、ファブラボのメンバーの認識は違う。米オバマ大統領は確かに今年の初めに、「3次元プリンタが新しい産業をつくる」と述べた。しかしそれは、旧来の製造業が復活するのではなく、コンピュータやデジタル技術と密接につながった、新しいものづくりが、これまで世の中にはなかったジャンルの産業として登場するということなのだ。ITがフィジカルな世界にまで「染み出して」くるのである。
コップを海外に「転送」できる?
必要なものを、必要なだけ「プリント」する時代に
では新しいジャンルの産業とはどういうものか。それはたとえば「ものをデータで送ることができる」というものだ。たとえばコップを海外に送りたいと思ったら、もう梱包する必要はない。3次元スキャナという機械を使ってコップをデータ化し、メールに添付して送付。そして送り先で3次元プリンタを用いて物質化すれば、それは「運ばれた」ことになる。昔から夢見られた「遠隔転送技術」だ。
それだけではない。3次元プリンタでは、たとえば、足が折れた椅子の足を直すことも、おじいさんの耳のサイズにぴったり合う補聴器をつくることも、自分が小さい頃住んでいた街並みを模型として再現することもできる。これらは、「工業製品」をつくっているわけでも、「製造業」を復活させているわけでもない。デジタル技術の軽やかな感覚で、「もの」を、まさに「プリント(印刷)」感覚でつくっているのである。