創業者が貢献できるもの <br />他に抜きんでて貢献できるものは何かダイヤモンド社刊
1890円

「ベンチャーが発展し、成長するに伴い、創業者たる企業家の役割は変わらざるをえない。これを受け入れなければ、事業は窒息し、破壊される」(『チェンジ・リーダーの条件』)

 このことには、あらゆる創業者が同意する。事業の成長に適応できずに挫折した創業者の話は、いろいろ耳にしている。

 ベンチャーが成功を始めたら、自らの役割を変えなければならない。しかし、具体的に何をどう変えたらよいかを知る者は少ない。

 どうしても、「自分は何をしたいか」から考える。あるいは「自分は何に向いているか」を考えてしまう。ドラッカーは、いずれも間違いだという。何をおいてもまず初めに考えるべきことが、「事業にとって大事なことは何か」だというのである。

 創業者たる企業家は、事業をスタートさせたとき、事業が軌道に乗ったとき、大きく伸びたとき、この問いを必ず考えなければならない。

 そして、次に問うべき問いが、「自らの強みは何か」であり、「事業にとって大事なことのうち、自らが貢献できるもの、他に抜きんでて貢献できるものは何か」である。「自分は何を行いたいか」を考えるのは、その後のことである。

 ポラロイドカメラの発明者エドウィン・ランドは、会社設立後15年間は自らマネジメントしていた。しかし会社が成長路線に乗るや、トップマネジメントのチームを編成して、自分はマネジメントから身を引いた。マネジメントの仕事は向かないことを知っていた。向いているのは研究開発だった。

 ドラッカーの知人には、ベンチャーを四つ創業し、いずれも中堅企業に育てた後、そのいずれからも身を引いたという人がいたそうである。事業を生み育てることは得意としたが、マネジメントは不得意だった。

 この人は別れることが、自分にとっても事業にとっても幸せだという事実を受け入れていたという。

 「自分は何が得意で何が不得意かとの問いこそ、ベンチャーが成功しそうになったとたんに、創業者たる企業家が直面し、徹底的に考えなければならない問題である。しかし実は、そのはるか前から考えておくべきことである。あるいは、ベンチャーを始める前に、考えておくべきことかもしれない」(『チェンジ・リーダーの条件』)