うつ病は今やがん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病の4大疾病に並ぶ病気として認識されている。職場にうつ病に苦しむ同僚がいるということも、決して珍しいことではない。完治するには専門的な治療と、往々にして休職期間が必要で、一定の時間が必要だということが社会では広く知られるようになった。しかし、この状況を会社の経営者側から見れば、違った景色となる。欠員が出るために他の社員への配慮をしなければならず、さらに業績へのインパクトを最小限にしなければならない。場合によっては冷徹にその社員の処遇を判断しなければならない事がある。今回は、悩みに悩んだ末に決断を下したある社長の事例から、労働関連法を見ていきたい。(弁護士・中里妃沙子 協力・弁護士ドットコム)
社員を思えばこそ……
悩み抜いた社長の決断
「先生、言いにくいのですが……、社員を一人、辞めさせたいと思っています……」
事務所に法律相談にやってきた中小企業の社長を務めるA氏は、まるで悪いことをしてしまったかのような様子だった。
「実はうちの会社の社員が、ひどいうつ病にかかっていて、長期の休職中なんです。もうすぐ休職期間が満了するのですが、いっこうに病気がよくなりません。私としては、彼には会社を辞めてほしいと思っています……」
長期間休職している社員がいるために、他の社員の仕事の負担が増えているようで、職場に不満がたまっているという。社内の雰囲気が悪くなっていることに、社長は危機感を感じているようだった。
「それに正直言って、会社はうつ病の社員の社会保険料まで立て替えていて、彼は働いていないのに……。その負担もばかになりません」
A社長によると、うつ病の社員の会社負担分の社会保険料だけでなく、本人負担分の社会保険料も立て替えてきたという。A社長は社員に対してできる限りのサポートをしてきた。しかし、それも限界で、つい本音が出てしまった。
社員の年収にもよるが、平均的な年収の社員の会社負担分と本人負担分の両方を年間通して負担すれば、100万円は下らない。コストを切り詰めてなんとか収益を確保してきた中小企業にとっては、大きな額である。