先月21日、土石流で7人が死亡した山口県防府市の特別養護老人ホーム「ライフケア高砂」

 先月、全国各地で集中豪雨が発生し、九州北部や山口県など西日本を中心に土砂災害が相次いだ。土砂災害で犠牲になった人の多くが、高齢者などのいわゆる「災害弱者」だった。山口県防府市では、特別養護老人ホームを土石流が直撃し、昼食をとっていたお年寄り7人が亡くなった。

 実は、この老人ホームの一帯は昨年、山口県から「土砂災害が発生するおそれがある地域=土砂災害警戒区域【※注】」として指定されていた。危険性が指摘されていたにもかかわらず、なぜ被害を防ぐことができなかったのか。「追跡!AtoZ」では緊急に取材班を立ち上げ、続発する土砂災害の実態を追った。

NHKが全都道府県に行なった土砂災害に関する緊急アンケート。自治体の対策の遅れが明らかになった

 番組では、鎌田キャスターが山口県の災害現場へ取材に向かうとともに、全国すべての都道府県に緊急アンケートを行ない、「土砂災害警戒区域」のなかに老人ホームなどの「災害弱者」の施設がどれくらいあるのか、調査を行なった。

【※注】「土砂災害警戒区域」は、平成13年に施行された「土砂災害防止法」に基づき、土石流や地滑りの恐れがある場所を都道府県が指定する。指定された場合、市町村はハザードマップの周知、警戒区域内にある老人ホームなど「災害弱者」施設の警戒避難体制を定めることになっている。

 私たちの調査の結果、土砂災害警戒区域にある「災害弱者」の施設数は、全国で2960ヵ所にも上ることが判明した。山口県の災害は、決して特殊なケースではなかったのだ。

危険地帯に、特養老人ホームが
次々と建てられたワケ

 それでは、なぜ「土砂災害警戒区域」にこれほど多くの「災害弱者」の施設が建設されたのか。専門家が指摘したのは、平成元年に国が打ち出した『ゴールドプラン』という政策だった。

 『ゴールドプラン』は、急速に進む高齢化のなか、老人福祉施設の建設を加速させることを目的に、予算総額6兆円で始まった。この政策により、建設費の4分の3は国と県が負担することになり、特別養護老人ホームを建設しようとする事業者の負担は4分の1で済むようになった。

 さらに、高齢化・過疎化に悩む市町村は、事業者負担の4分の1をも軽くしようと考えた。独自の助成を行うことで、施設の誘致を進めようとしたのだ。市町村は、地代が安く、まわりに民家などが少なく反対運動が起きにくい山間地などに建設用の土地を用意した。設立時の負担が軽くなる事業者は、土砂災害の危険を考えることもなく、特別養護老人ホームを建設していった。こうして建設された特別養護老人ホームが、平成13年に施行された「土砂災害防止法」に基づいて、「土砂災害警戒区域」に次々と指定されるという事態が起きていたのだった。

 土砂災害の危険が高い土地に建設された「災害弱者」の施設。いざというときのため、備えはどこまで行なわれているのか。取材班のアンケート調査でさらにこの点をたずねたところ、ハザードマップを作成している自治体は49%、情報伝達などの警戒避難態勢を整備している自治体も57%と、いずれも半数程度に留まっていることが明らかになった。