いくつもの問題を抱えながらも表面的には立ち直りの気配を見せる日本経済。しかし決して安心できるものでないことは確かです。現に大手企業の不採算部門縮小、切り離し、海外企業への売却といった話題も日々聞こえてきます。「私の知る限り、最も高い技量を求められるのは不振事業の再生である」。これは今回紹介する『戦略プロフェッショナル[増補改訂版]』のまえがきで、著者である三枝匡氏が記している言葉です。本書は、そんな困難な事業再生を成し遂げた実体験に基づく迫真の物語です。

経営未経験の”アマチュア”社長が
事業再生を果たす「逆転のドラマ」

「競争逆転のドラマ」という副題が付いていなければ、分厚くて難解な経営戦略書をイメージしてしまうかもしれません。本書はしかしながら、学者による研究書でもなければ、経営コンサルタントが複雑な戦略モデルを解説しているわけでもありません。

日本に必要な「戦略的経営者」とは?<br />実話に基づく迫真のストーリー三枝匡著『戦略プロフェッショナル[増補改訂版]――競争逆転のドラマ』
2013年6月刊行。1991年に刊行された旧版からデザインを一新した待望の新版。著者本人による増補、インタビューなどを追加しています。

 本書『戦略プロフェッショナル[増補改訂版]』の主人公は広川洋一という、架空のビジネスマンです。日本有数の鉄鋼メーカーである第一製鉄から出向し、関連会社の新日本メディカルで常務取締役を務めている「40歳に届かない」人物です。これまで一度も組織の上に立ったことのないアマチュア同然の広川は、医療機器関連の不振事業の再生を委ねられ、いきなり経営者として高い技量を求められます。圧倒的に強い競合企業の壁を突き崩すため、広川は新しい競争のルールを見つけ出そうと苦悶し続け、そしてついにはそれを見つけ出して事業再生を果たします。まさに「逆転のドラマ」が小説仕立てで展開されるのです。

 小説の“幕間”にはプロ経営者としての著者の解説が付されているので、戦略プロフェッショナルの思考法や実践プロセスを詳細に知ることができます。

 著者の三枝匡氏は一橋大学卒業後、三井石油化学を経て、ボストン・コンサルティング・グループの日本国内第1号コンサルタントとして採用されました。その後31歳でシカゴの米国企業に入社し、その米国企業と日本の住友系企業が共同出資して大阪に設立した合弁会社に常務取締役として送り込まれ、1年後には代表取締役に就任しました。本書の内容はこの合弁会社での経験を下敷きにしています。臨場感を持たせるため、背景描写には脚色が加えられているものの、自分自身を主人公の広川に置き換え、「事実関係についてはすべて本当にあったこと」をもとに構成を組み立てたそうです。

 それだけに、学者などが書いた経営戦略書のケーススタディとはかなり趣を異にしています。市場の状況や競合の動きなど事実にもとづく生のデータが使われており、説得力がいや増す内容になっています。